業種別レポート生成AI建設業設備工事

【業種別】建設・設備工事 — 書類作成を工期短縮につなげる

施工計画書・安全書類・写真台帳を、単なる事務負担ではなく工程を前へ進める情報として捉え直します。生成AIで記録から下書きまでを短くすることを目指し、人が安全・品質・工期を確認する着手順を示します。

分析
服部 淳
代表取締役 / 業務変革コンサルタント
公開日
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Key Findings

  • 国土交通省の建設企業調査では、施工現場で情報通信技術(ICT)を活用していない企業が約74%、書類簡素化に取り組む企業が約56%で、実際に削減が進んでいる企業は約26%だった
  • 近畿地方整備局発注の履行中820工事を対象とした調査では571件が回答し、工事書類作成スリム化ガイドを適用済みとした回答は58%だった
  • 最初の1業務は、現場写真と撮影情報から工事写真台帳の下書きを作り、人が施工内容・品質・提出要件を確認することである

サマリ

施工計画書、安全関係の書類、工事写真、検査資料は、現場を止めるための事務ではありません。誰が、どの条件で、何を施工し、どう安全と品質を確認したかを、発注者・元請・協力会社の間で共有するための情報です。一方、記録の転記、写真の仕分け、様式への入力、差し戻し対応が現場担当者へ集中すると、本来の工程管理や次の作業準備に使う時間を圧迫します。

生成AIの役割は、施工内容や安全性を判断することではありません。現場で人が残した写真、音声メモ、日報、承認済みの計画、使用材料の記録を案件IDと工種で束ね、必要な書類の下書きと不足項目の一覧を作ることです。法令、契約、発注者ごとの様式、安全、品質、出来形、検査可否は、権限を持つ人が原記録へ戻って確認します。

本レポートの結論は、書類作成時間の削減額だけを効果にしないことです。記録発生から下書き完成まで、確認依頼から承認まで、差し戻しから再提出までの時間を測り、検査・次工程・次現場への移行が早まったかを確認します。最初の1業務は、現場写真と撮影情報から工事写真台帳の下書きを作ることです。

データ:業界の現在地

5人以上事業所の常用労働者では、建設業が全産業より295時間長い

厚生労働省「建設労働をめぐる情勢について」が引用する毎月勤労統計調査では、事業所規模5人以上の常用労働者について、2024年の年間総実労働時間の平均は建設業が1,938時間、全産業が1,643時間、製造業が1,877時間でした。建設業と全産業の差は295時間です。

同資料が引用する就労条件総合調査では、企業規模30人以上における完全週休2日制の普及率は、全産業56.7%、製造業53.5%に対して、建設業は45.9%でした。労働時間と週休の調査は対象規模が異なるため、一つの母集団として結び付けることはできません。また、この数値だけで長時間労働の原因を特定することもできません。本レポートでは、現場作業と管理業務の時間配分を見直す背景として扱います。

完全週休2日制の普及率

2024年、企業規模30人以上を対象とする就労条件総合調査です。

  • 全産業
    56.7%
  • 製造業
    53.5%
  • 建設業
    45.9%

企業数に占める割合です。毎月勤労統計調査の年間総実労働時間とは対象規模が異なり、同じ回答企業の比較ではありません。

技術者・技能者とも、4週8休以上は約3割にとどまる

国土交通省の令和6年度調査は、建設業法に基づく届出116団体の会員企業を対象に、1,602社から回答を得ています。有効回答は1,574社です。

休日取得の設問では、技術者について回答した企業1,153件のうち「4週8休以上」が28.6%、技能者について回答した企業913件では29.4%でした。前年より改善していますが、どちらも最も多い回答は「4週6休程度」です。月平均の残業時間が45時間未満とした企業は、技術者86.6%、技能者88.9%でした。

4週8休以上を取得している割合

国土交通省の令和6年度建設企業調査です。

  • 技術者企業回答1,153件
    28.6%
  • 技能者企業回答913件
    29.4%

回答企業の休日取得状況であり、すべての建設労働者を直接数えた割合ではありません。技術者と技能者では回答数が異なります。

情報通信技術(ICT)未活用は約74%、書類削減が進んだ企業は約26%

同じ国土交通省調査では、施工現場で「情報通信技術(ICT)を活用していない」と回答した企業が約74%でした。ICT活用の課題は「ICT活用のための人材が不足」が43.7%、「費用対効果が不明」が41.6%です。

下請へ提出を求める書類の見直しでは、「書類の簡素化」に取り組む企業が約56%である一方、実際に削減が進んでいる企業は約26%でした。これは生成AIの利用状況を尋ねた調査ではなく、ICTの範囲も生成AIに限りません。したがって「生成AIを導入すれば残り74%を解消できる」とは読めません。現場ごとの様式、責任分担、原記録、承認権限を整えずに入力手段だけを増やしても、書類削減にはつながりにくいと考えられます。

データ:この業界だけの構造

書類は、工程の前・最中・後をつないでいる

建設・設備工事の書類は、一般的な社内報告と違い、施工そのものと結び付いています。

  • 着手前には、施工方法、体制、工程、安全・品質上の確認事項を計画する
  • 施工中には、作業員、使用材料、作業内容、出来形、立会、変更、危険事項を記録する
  • 施工後には、工事写真、品質・出来形資料、検査に必要な証拠をそろえる

一つの事実が複数の書類へ現れます。例えば、ある配管の施工日は日報に、施工箇所と工種は写真に、使用材料は受入記録に、確認結果は検査資料に残ります。案件ID、工種、場所、日時、担当者の表記がそろっていなければ、人による照合が必要になります。この照合時間が、書類作成の見えにくい負荷になり得ます。

571件の回答では、スリム化ガイド適用済みが58%

近畿地方整備局は、2024年8月1日時点で履行中だった直轄工事820件を対象に、工事書類作成スリム化ガイドのアンケートを実施しました。港湾空港・営繕関係を除く工事が対象で、回答は571件、回答率は約70%です。

ガイドを「適用した」が46%、「協議のうえ適用した」が12%で、適用済みは合計58%でした。「今後適用予定」は27%、「適用しなかった」は15%です。

工事書類作成スリム化ガイドの適用状況

近畿地方整備局発注の履行中工事820件を対象とし、571件が回答しました。

  • 適用した265件
    46%
  • 協議のうえ適用67件
    12%
  • 今後適用予定154件
    27%
  • 適用しなかった85件
    15%

近畿地方整備局の直轄工事に対する回答であり、民間工事や全国の建設・設備工事へそのまま一般化できる割合ではありません。

同調査では、役割分担を確認する工事進捗定例会議等が「開催された」52%、「今後開催予定」11%に対し、「開催されていない」が37%でした。開催された299件のうち、役割分担を「明確化できた」「ある程度明確化できた」は合計96%です。この結果から、書類の様式だけでなく、誰が何を作るかを確認する場も検討対象になります。

待ち時間は、作成だけでなく確認と回答にも生まれる

同じ近畿地方整備局調査のワンデーレスポンス実施状況では、「その日に回答または回答日の通知がされた」が19%、「ある程度、その日に回答または回答日の通知がされた」が56%でした。一方、「全く、その日に回答または回答日の通知がされなかった」は25%です。

この数字は、回答の遅れが工期を何日延ばしたかを測っていません。書類作成時間とも別の設問です。しかし、現場の情報リードタイムを考えるとき、受注者側の作成時間だけを測るのでは不十分です。確認依頼が届くまで、発注者や監督職員が判断するまで、差し戻しが解消するまでを一続きで見る必要があります。

現場記録を、工程を進める情報へ変える

AIは整理と下書きを担い、安全・品質・契約上の判断は人が行います。

  1. 原記録をそろえる写真、撮影日時、場所、工種、日報、材料、承認済み計画を案件IDで束ねる。
  2. 下書きと不足一覧を作るAIが写真台帳や定型欄を下書きし、記録にない項目は未確認として示す。
  3. 人が確認して工程へ返す担当者が施工内容、安全、品質、契約、提出要件を原記録と照合して承認する。

短くする対象は文字入力だけではなく、記録発生から確認済み情報が次工程へ届くまでの時間です。

服部の分析

服部は、建設・設備工事では、担当者の執筆速度ではなく、書類の元になる事実の分散がボトルネックになり得ると考えています。個社が特定されない共通点として整理すると、写真はスマートフォン、作業内容は紙の日報、変更指示はメール、材料情報は納品書、協力会社との確認はチャットに分かれていました。

その状態で「AIに施工計画書を書かせる」と、もっともらしい文章は早くできます。しかし、現場条件、契約図書、施工要領、法令、メーカー仕様、協力会社の体制が正しく結び付いていなければ、確認と差し戻しが増える可能性があります。特に安全書類で、AIが未確認事項を補ってしまう運用は認められません。

私たちは、建設業で最初に狙うべき価値は、文章の生成量ではなく、現場で一度記録した事実を、次の確認で再入力しないことだと見ています。写真を撮る時点で案件ID、場所、工種、撮影方向、施工前・施工中・施工後を付け、日報や材料記録とつなぎます。AIはその原記録から台帳の下書きを作り、足りない写真、読み取れない黒板、日付の不一致を候補として示します。

ここで「書類作成を工期短縮につなげる」とは、契約工期が自動的に短くなるという意味ではありません。次の条件がそろったときに、工程を前へ進められる可能性が生まれるという意味です。

  1. 検査や立会に必要な証拠が、予定日までにそろう
  2. 不足や不一致が、手戻りできる時点で見つかる
  3. 確認者が、原記録へすぐ戻れる
  4. 完了確認後の請求・引渡し・次現場への移行が滞らない

効果は会社ごとに測る必要があります。例えば、台帳作成が2時間から1時間になっても、承認待ちが3日から変わらなければ、工程への効果は限定的です。これは効果測定の考え方を示す仮定であり、実測値ではありません。反対に、不足写真を当日に検出でき、再撮影や説明資料の作り直しを避けられれば、後工程の待ち時間を減らせる可能性があります。

提言 — どう付き合っていくか

1. 最初の1業務を「工事写真台帳の下書き」に絞る

施工計画書、安全書類、検査資料を一括で自動作成しないでください。まず、施工前・施工中・施工後の写真を案件ID、場所、工種、日時で整理し、台帳の説明欄と不足項目を下書きする業務から始めます。写真に写っていない施工内容や品質をAIに推定させてはいけません。

2. 入力時点で、後から照合できる識別子を付ける

工事番号、案件ID、棟・階・部屋・系統、工種、撮影日時、撮影者、施工前・施工中・施工後の区分を必須にします。黒板やファイル名だけに情報を閉じず、検索できる項目として残します。協力会社が使う名称と元請・発注者の名称も対応表で結びます。

3. AIの出力を「下書き」と「不足一覧」に限定する

AIは、写真の分類、重複候補、説明文の下書き、日報との日付照合、必要写真の不足候補を出します。施工方法、安全性、品質適合、出来形、法令・契約への適合は確定しません。信頼度の低い読み取りや原記録にない項目は「未確認」とし、人が確認できないまま提出物へ移さない運用にします。

4. 作業時間ではなく、工程へ届くまでの時間を測る

記録発生から台帳下書きまで、担当者確認、差し戻し、再提出、承認までの時刻を残します。台帳1件当たりの作成時間、欠落写真、説明修正、差し戻し、承認待ちに加え、検査準備の完了日と予定日との差を測ります。個人評価ではなく、どの工程・様式・承認経路に待ち時間があるかを見る指標として使います。

着手順は、写真の識別項目を決める → 1工種で台帳を下書きする → 人が原記録と照合する → 検査準備までの時間と手戻りを測るです。効果を確認してから、承認済みの情報を再利用する範囲で日報、安全書類、施工計画書の定型部分へ広げます。最初の1業務は、工事写真台帳の下書きです。

出典・参照データ

本レポートの分析は以下の一次情報に基づいています。統計・数値の詳細は各出典をご確認ください。

  1. 令和6年度『適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査』調査結果(建設企業)
    国土交通省

    建設業法第27条の37に基づく届出116団体の会員企業を対象とし、1,602社が回答、1,574社が有効回答。4週8休以上、残業時間、情報通信技術(ICT)未活用約74%、ICT人材不足43.7%、費用対効果不明41.6%、書類簡素化への取組約56%と実際の削減約26%を参照

  2. 『土木工事書類作成スリム化ガイド』に関するアンケート結果
    国土交通省 近畿地方整備局

    2024年8月1日時点で履行中の近畿地方整備局発注工事820件(港湾空港・営繕を除く)を対象とする無記名Web調査で571件が回答。ガイド適用状況、進捗定例会議、役割分担、ワンデーレスポンス、書類限定検査を参照

  3. 建設労働をめぐる情勢について
    厚生労働省

    毎月勤労統計調査の事業所規模5人以上を対象とする2024年の年間総実労働時間(建設業1,938時間、全産業1,643時間)と、就労条件総合調査の企業規模30人以上を対象とする完全週休2日制の普及率(建設業45.9%、全産業56.7%、製造業53.5%)を参照