業種別レポート生成AI不動産賃貸管理

【業種別】不動産仲介・管理 — 管理業務の問い合わせ対応を24時間化する

入居者からの設備不具合や生活ルールの問い合わせを24時間受け付け、人が緊急性と対応方針を判断する仕組みを、管理会社と入居者の調査から整理します。

分析
服部 淳
代表取締役 / 業務変革コンサルタント
公開日
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Key Findings

  • 国土交通省の登録データでは、管理業務の従事者数を確認できた登録業者9,895社の56.4%が5人以下。管理戸数1〜199戸の業者では78.6%に上る
  • 物件購入または賃貸手続き経験者計778人へのアットホーム調査では、賃貸の新規契約・更新・解約の各群で『営業時間内に不動産会社へ連絡すること』が負担の上位3項目に入った
  • 管理会社への不満経験者265人への民間調査では、47.5%が設備故障・修理対応の遅さ、35.8%が返信・対応までの長さを不満として選んだ

サマリ

賃貸住宅の設備不具合や生活上の困りごとは、管理会社の営業時間に合わせて起きるわけではありません。一方、24時間対応を「24時間で解決すること」と捉えると、人員、当番、外部委託など、解決まで担う体制を営業時間外にも確保する必要があります。

本レポートでいう24時間化は、いつでも受け付け、緊急性を切り分け、次に誰が何を確認するかを約束することです。生成AIは、物件・設備・契約にひもづく情報から質問し、必要事項をそろえ、承認済みの回答候補と引き継ぎ票を作ります。火災、ガス臭、水漏れの拡大、人命に関わるおそれなどは固定ルールで人や緊急連絡先へ直ちにつなぎます。AIが緊急性、修繕責任、費用負担、契約解釈を最終判断する設計にはしません。

この分担なら、夜間に担当者を常時置けない会社でも受付口を閉じず、翌営業日の聞き直しを減らせるか検証できます。入居者には「連絡が届いた」「次に何が起きるか」が残り、管理会社には問い合わせ履歴を運営改善の材料として蓄積できます。

データ:業界の現在地

登録業者の56.4%は、管理業務の従事者が5人以下

国土交通省「令和6年度賃貸住宅管理業に係る調査報告書」に収録された令和7年7月末時点の登録データでは、登録賃貸住宅管理業者は9,987社でした。このうち管理戸数の属性集計に含まれた9,906社の平均管理戸数は1,163戸です。管理戸数0戸の登録業者を含む平均であり、会社ごとの差も大きいため、1社の標準的な姿を示す値ではありません。

管理業務の従事者数が0人または未記載の業者を除いた9,895社では、1人が6.6%、2人が10.6%、3〜5人が39.2%で、5人以下を合わせると56.4%でした。公表グラフが「管理戸数200戸未満」と表記する区分の分母2,903社は、内訳を合計すると管理戸数1〜199戸の業者です。この区分では、5人以下が78.6%でした。

登録賃貸住宅管理業者の管理業務従事者数

登録申請時の『業務等の状況に関する書面』から、従事者数0人・未記載を除いて集計した構成比です。

  • 1人n=9,895社
    6.6%
  • 2人n=9,895社
    10.6%
  • 3〜5人n=9,895社
    39.2%
  • 6〜10人n=9,895社
    23.2%
  • 11人以上3区分の公表値を単純合計
    20.3%

11人以上は11〜30人14.2%、31〜50人2.9%、51人以上3.2%の公表値を単純合計したため、丸めにより合計は100.1%です。登録業者の構成であり、未登録業者を含む業界全体の推計ではありません。

従事者数の構成だけでは、営業時間外の問い合わせ量や必要人員は分かりません。管理会社ごとに受付件数と対応時間を測り、人員、当番、外部委託のどこが負荷になっているかを確認する必要があります。24時間化の目的は人を減らすことではなく、限られた人を現地判断、入居者への説明、業者手配、オーナーへの報告へ集中させられるかを検証することです。

国土交通省「賃貸住宅管理業法における登録業者の属性」によると、自己所有物件を除く管理戸数が200戸以上の事業者には登録義務があります。登録業者には、業務管理者の選任、管理受託契約前の重要事項説明、財産の分別管理、委託者への定期報告等が求められます。これら登録業者としての義務は、AIを利用しても移転しません。問い合わせ時にAIと人が担う範囲は法的要件として示すのではなく、本レポートが提案する安全設計として分けます。

賃貸手続きでは、営業時間内の連絡が負担になっている

アットホーム「書類のオンライン化・電子サインに関する実態調査 2024」は、2023年5月以降に物件を購入した、または賃貸物件を新規契約・更新・解約した18〜59歳の778人を対象としたインターネット調査です。

同調査では、賃貸の新規契約・更新・解約のすべてで「営業時間内に不動産会社に連絡すること」が、大変・面倒だったことの上位3項目に入りました。契約手続きの調査であり、設備故障の問い合わせ時刻を測ったものではありません。そのため「入居者からの連絡は夜間・休日に集中する」とまでは言えませんが、会社の営業時間と入居者が連絡できる時間のずれは確認できます。

対応の遅さは、不満経験者が挙げる中心項目だった

アセットテクノロジー「賃貸物件管理会社サービス品質に関する入居者意識実態調査」は、現在賃貸物件に入居中、または過去3年以内に入居し、管理会社とのやり取り経験がある324人を対象としたインターネット調査です。

管理会社への不満経験者265人への複数回答では、設備の故障・修理対応の遅さが47.5%、連絡から返信・対応までの長さが35.8%、連絡しても対応してもらえなかったことが28.3%でした。

管理会社への不満経験者が選んだ対応上の不満

管理会社に1回以上不満を感じた人への複数回答です。

  • 故障・修理対応が遅いn=265人
    47.5%
  • 返信・対応までが長いn=265人
    35.8%
  • 連絡しても対応されないn=265人
    28.3%

複数回答のため合計は100%になりません。管理会社とのやり取り経験者に限定した民間調査で、全国の全入居者を代表する無作為抽出調査ではありません。

同じ265人のうち、管理会社への不満が原因で実際に契約更新せず退去したと答えた人は20.4%、真剣に退去を検討したが更新した人は38.9%、一時的に退去を考えた人は16.6%でした。これは不満経験者の自己申告であり、対応速度を上げれば更新率が何ポイント上がるかを示す因果推定ではありません。ただし、受付後の反応と進捗説明を、単なるコストではなく入居継続に関わるサービスとして検証する理由になります。

データ:この業界だけの構造

問い合わせの答えは、物件・設備・契約で変わる

賃貸管理の問い合わせは、一般的なFAQだけでは完結しません。同じ「お湯が出ない」でも、建物全体か一室か、給湯器の種類、エラーコード、ガスの供給状況、凍結のおそれ、入居者が安全に確認できる範囲によって次の行動が変わります。同じ「鍵をなくした」でも、共用部か専有部か、本人確認、提携業者、費用条件、深夜の入館方法が物件ごとに異なります。

管理会社が持つ強みは、物件台帳、設備台帳、契約条件、入居案内、過去の対応履歴、協力会社、オーナーごとの承認条件を結び付けられることです。生成AIは、この文書資産から回答候補を探し、足りない情報を質問し、人への引き継ぎ票を作れます。参照元が見つからない場合は推測で答えず、「確認が必要」として人へ渡します。

24時間受付と、24時間解決を分ける

24時間化で先に設計するのは、回答文ではなく責任分界です。

問い合わせ AIが補助できる範囲 人・固定ルールが担う範囲
ごみ出し、共用設備、各種手続き 物件別資料の検索、回答候補、参照元の提示 例外判断、契約解釈、個別事情への配慮
設備不具合 症状、場所、発生時刻、エラー表示、写真の収集 緊急性、修繕責任、業者手配、費用負担
水漏れ、ガス臭、火災、人命のおそれ 定型の安全案内を表示し、即時転送 緊急連絡先・消防等への連絡、現場判断
騒音、迷惑行為 事実関係と希望する対応の聞き取り 当事者対応、警察等への相談判断、記録管理
更新、解約、原状回復 必要書類、期限、受付状況の案内 法的判断、費用査定、交渉、最終説明

「AIが答えた件数」だけを目標にすると、難しい問い合わせまで自動回答へ押し込みます。見るべきなのは、受付完了率、必要事項の充足率、緊急案件の即時転送率、翌営業日の聞き直し回数、回答根拠の提示率、有人対応後の再問い合わせ率です。

受付履歴を、管理戸数を増やす土台にする

問い合わせを物件、設備、症状、緊急度、原因、対応、業者、費用、再発の有無で記録すると、同じ給湯器、同じ建物、同じ説明不足から繰り返す問題が見えます。生成AIは、個人情報を必要以上に残さない前提で、表記の異なる記録を分類候補へまとめ、再発箇所や未解決案件を抽出できます。

この履歴はFAQを増やすためだけのものではありません。設備更新の提案、入居案内の改善、協力会社の評価、オーナーへの定期報告に戻せます。受付から管理改善までつながれば、管理戸数が増えても担当者の記憶だけに依存しない運営へ変わります。

24時間受付を管理改善へ戻す3段階

AIは受付と整理を補助し、緊急性・責任・修繕・費用は人が判断します。

  1. 物件別に受け付ける本人と物件を確認し、症状、発生時刻、場所、写真など、次の判断に必要な項目をそろえる。
  2. 固定ルールで振り分ける緊急案件は即時転送し、承認済みFAQは根拠付きで案内し、それ以外は担当者へ引き継ぐ。
  3. 履歴を改善へ戻す再問い合わせ、故障の反復、説明不足を集計し、設備・案内・協力会社・報告を見直す。

24時間化の価値は、夜中に全件を解決することではなく、連絡を止めず、翌営業日の判断を速くし、同じ問題を減らす改善へつなぐことにあります。

服部の分析

賃貸管理の現場では、担当者が長く働くほど対応品質が上がる場面があります。物件ごとの癖、オーナーの意向、過去の修繕、協力会社の得意分野を覚えているからです。一方、その人が休むと「前にも同じことがあったはずなのに、どこに記録があるか分からない」という状態にもなります。

私たちは、生成AIの機会はベテランの判断を置き換えることではなく、判断に入る前の聞き取りと資料探しを、24時間止めないことにあると見ています。夜間に問い合わせが来た時点で、物件、部屋、設備、症状、写真、入居者が安全に確認した内容までそろっていれば、翌朝の担当者は最初から聞き直さず、業者手配や説明に入れます。

重要なのは、入居者へ「AIが対応中です」とだけ返さないことです。受付番号、受け付けた内容、緊急時の連絡先、次の連絡予定、追加で必要な情報を明示します。回答には参照した物件資料や入居案内をひもづけ、資料が古い、条件が一致しない、費用や責任が関わる場合は人へ止めます。

管理戸数の拡大余地は、問い合わせを減らし切ることではなく、増えても品質を落とさず扱える仕組みを検証することにあります。受付履歴から同じ不具合や説明不足を見つけ、設備更新や入居案内へ戻す。問い合わせを一件ずつ閉じるだけでなく、次の問い合わせが起きにくい管理へ変えられるかを測ることが、付加価値づくりの出発点になります。

提言 — どう付き合っていくか

1. 最初の1業務を「営業時間外の設備不具合問い合わせの一次受付」に絞る

全問い合わせの自動回答から始めません。給湯器、エアコン、水回りなど、聞き取る項目を定義しやすい設備不具合の一次受付を1物件群で始めます。AIの役割は、必要事項の収集、承認済み案内の候補提示、引き継ぎ票の作成までです。

2. 緊急案件を生成AIの判断から外す

火災、ガス臭、漏水の拡大、人命に関わるおそれ、犯罪や深刻な迷惑行為は、キーワードだけに頼らない固定の質問と分岐を作り、有人窓口や緊急連絡先へ直ちにつなぎます。転送に失敗した場合の代替連絡先も表示します。

3. 物件別の回答根拠と権限を整える

物件台帳、設備台帳、入居案内、契約、協力会社、過去履歴のうち、AIが参照できる範囲を決めます。個人情報は必要最小限とし、閲覧権限と保存期間を設定します。回答候補には参照元と更新日を付け、古い資料や根拠なしの回答を人へ戻します。

4. 応答件数ではなく、翌営業日の手戻りと再問い合わせを測る

受付完了率、必要事項の充足率、緊急転送の成功率、翌営業日の聞き直し回数、根拠を示せた割合、同じ内容での再問い合わせを測ります。1か月後に入居者と担当者の両方へ確認し、FAQ、質問順、転送条件、物件資料を直します。成果が確認できてから、生活ルール、更新・解約の案内へ広げます。

出典・参照データ

本レポートの分析は以下の一次情報に基づいています。統計・数値の詳細は各出典をご確認ください。

  1. 令和6年度賃貸住宅管理業に係る調査報告書 参考資料3 賃貸住宅管理業者の登録の状況
    国土交通省

    令和7年7月末時点の登録業者データを参照。登録総数9,987社、管理戸数属性集計9,906社、管理業務の従事者数が確認できる9,895社、5人以下56.4%、管理戸数1〜199戸では5人以下78.6%、属性集計対象の平均管理戸数1,163戸を引用

  2. 書類のオンライン化・電子サインに関する実態調査 2024
    アットホーム株式会社

    2023年5月以降に物件購入または賃貸の新規契約・更新・解約をした18〜59歳778人へのインターネット調査。賃貸の契約・更新・解約で営業時間内の連絡が負担の上位3項目に入ったことを参照

  3. 賃貸物件管理会社サービス品質に関する入居者意識実態調査
    アセットテクノロジー株式会社

    現在入居中または過去3年以内に入居し、管理会社とのやり取り経験がある324人へのインターネット調査。管理会社への不満経験者265人の不満項目、更新せず退去・退去検討の回答を引用

  4. 賃貸住宅管理業法における登録業者の属性
    国土交通省

    管理戸数200戸以上の事業者に登録義務があることと、登録後に業務管理者の選任、管理受託契約前の重要事項説明、財産の分別管理、委託者への定期報告等が求められることを参照