データレポート生成AIAIエージェントROI

生成AIの職能差とAIエージェントの用途別ROI — 主要3社の調査から導入順序を設計する

BCG調査では2026年のAI投資の3割超がエージェント領域へ向かう計画です。一方、Deloitteの生成AI施策全般の職能別ROIと、Google Cloudのエージェント用途別ROIには差があります。調査対象を混同せず、「どの業務から入れるか」という導入順序の設計軸を一次データから整理します。

分析
岡崎 太
CTO / AIアーキテクト
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Key Findings

  • Deloitte調査(2,773名)が対象としたのはAIエージェントではなく生成AI施策全般。最先行施策のROIが期待を上回った割合はサイバーセキュリティで44%と全職能中最高(期待割れ17%)で、財務・営業・R&Dでは期待割れが期待超過を上回った
  • Deloitte調査で最も進んだ生成AI施策が置かれていた職能はIT(28%)に集中。財務は4%、人事は2%、法務・リスクは1%にとどまり、施策の成熟度そのものが職能で偏っている
  • Google Cloud調査(3,466名)では52%がAIエージェントを業務で活用中。生成AI導入企業全体の74%が初年度内のROI実現を報告し、エージェント先行導入層では用途別のROI実現率が全体平均より高かった

サマリ

AIエージェントに投資するかどうか——この問いは、2026年の経営会議ではすでに過去のものになりつつあります。BCG の AI Radar 2026 によれば、企業は2026年のAI投資を前年比で倍増させる計画で(売上比約1.7%)、回答したCEOはAI投資の 3割超をエージェント領域に配分しています。CEO の90%は「エージェントが2026年中に測定可能なROIをもたらす」と期待しています。問いはすでに「入れるか」ではなく、「どの業務から入れるか」に移っています。

一次データでは、職能・用途ごとに自己申告されたROI評価の分布が異なります。Deloitte が2,773名の企業リーダーに行った調査では、最も進んだ生成AI施策のROIが期待を上回った割合はサイバーセキュリティで44%と全職能中最高(期待割れは17%)。一方、財務・営業・R&D では期待割れの回答が期待超過を上回りました。ただし、このDeloitte調査は生成AI施策全般を対象とし、エージェント固有の比較ではありません。また、導入先の選択が差を生んだという因果も示していません。本レポートでは、この職能差を業務側の受け入れ条件を見る材料とし、Google Cloudのエージェント用途別データと分けて読みます。

Deloitte 調査では70%が「期待ROIの達成に関わる課題の解消に12ヶ月以上かかる」と見ており、76%は「価値目標未達の生成AI施策への投資を減らすまで12ヶ月以上待つ」と答えています。比較的高いROI報告があった用途で小さく検証し、評価・監視の型を蓄積してから、より厳格な検証を要する職能へ広げる——本レポートでは、これを「順序の設計」として提案します。

生成AIの職能差を確認し、エージェント用途の実績検証と評価・監視の型の横展開へ進む導入順序のインフォグラフィック

データ: 職能で分かれるROIの成績 — Deloitte 調査

Deloitte AI Institute の「The State of Generative AI in the Enterprise」第4四半期レポート(2025年1月公表)は、2024年7〜9月に14カ国・6業種の部長〜C-suite クラス2,773名を調査したものです。回答者には、自社で最も進んだ(スケールした)生成AI施策を1つ想定してもらい、その施策がどの職能にあり、ROIが期待に対してどうだったかを尋ねています。

まず全体像として、最先行施策のROIは概ね良好です。74%が「期待通り(43%)または期待超過(31%)」と回答し、20%はROIが30%を超えたと報告しています。しかし職能別に分解すると、成績は大きく割れます。

職能 ROI期待超過と期待割れの差(ポイント)
サイバーセキュリティ +27(超過44% / 割れ17%)
IT +15
戦略 +10
カスタマーサービス +8
サプライチェーン +7
マーケティング +2
オペレーション / 製品開発 0
R&D -5
営業 -8
財務 -8

サイバーセキュリティ施策のROI評価

各社で最も進んだ生成AI施策について、ROIが期待を上回った回答と下回った回答を比較します。

  • 期待を上回った
    44%
  • 期待を下回った
    17%

Deloitte調査の対象は生成AI施策全般であり、AIエージェント固有のROIではありません。回答は各社の最先行施策についての自己申告です。

期待超過率から期待割れ率を引いた差分指標は、サイバーセキュリティが+27ポイント、財務が-8ポイントで、両者には35ポイントの開きがあります。Deloitte はサイバー領域について、既存のAI活用経験とインフラを考えられる背景として挙げていますが、調査は因果を示しません。財務・営業で検証コスト等が影響する可能性は、本レポートで検証すべき仮説です。

導入の「深さ」も職能で大きく偏っています。最先行施策がどの職能にあるかの分布は次の通りです。

職能 最先行施策の所在割合
IT 28%
オペレーション 11%
マーケティング 10%
カスタマーサービス / サイバーセキュリティ 各8%
製品開発 7%
R&D 6%
営業 / 戦略 各5%
サプライチェーン / 財務 各4%
人事 / 製造 各2%
法務・リスク・コンプライアンス 1%

最も進んだ生成AI施策が置かれた職能

最先行施策の所在はITに集中し、財務・人事・法務では少数でした。

  • IT
    28%
  • オペレーション
    11%
  • マーケティング
    10%
  • カスタマーサービス
    8%
  • サイバーセキュリティ
    8%
  • 財務
    4%
  • 人事
    2%
  • 法務・リスク・コンプライアンス
    1%

14職能のうち本文で議論する8職能を掲載。割合は各社の最先行施策が置かれた職能であり、職能別の市場導入率ではありません。

ROI課題を解く時間軸: 12ヶ月では終わらないという自己認識

同じ Deloitte 調査は、課題の解消にかかる時間の見立ても聞いています。「期待ROIの達成・超過」に関わる課題を1年未満で解消できると見る回答者は26%にとどまり、55%は1〜2年、15%は2年超と回答しました。合計すると70%が12ヶ月以上かかると見ています。

課題領域 1年未満 1〜2年 2年超
ガバナンス戦略の実装 29% 52% 17%
期待ROIの達成・超過 26% 55% 15%
人材の確保 37% 51% 9%
信頼の確立 39% 49% 9%
データ課題の解消 40% 51% 8%
スケール障壁の克服 42% 48% 8%
従業員のトレーニング 44% 48% 7%

期待ROIの達成・超過に関わる課題の解消見込み

1年未満で解消できるという回答は26%で、1年以上を見込む回答は合計70%でした。

  • 1年未満
    26%
  • 1〜2年
    55%
  • 2年超
    15%

Deloitte調査における回答者の見込みです。3区分の合計は96%で、残りには無回答等が含まれます。エージェント固有の回収期間を測った値ではありません。

興味深いのは、7つの課題領域の中で「ROIの達成・超過に関わる課題」の解消が最も長く見積もられていることです(1年未満と答えた割合が最少)。これは実際の投資回収期間を測った値ではなく、回答者による課題解消時期の見込みです。一方で76%は「価値目標未達の生成AI施策への投資を減らすまで12ヶ月以上待つ」と答えています。短期の回収を前提に置くと、この検証期間の資金計画が崩れます。

この調査を読むときの注意点が3つあります。第一に、回答者は生成AIの導入・推進に直接関与する「AIに明るいリーダー」に限定されており、企業全体の平均像より進んだ層を映しています。第二に、ROIを聞いているのは各社の「最も進んだ施策」であり、平均的な施策の成績を直接示す値ではありません。第三に、調査時期は2024年7〜9月で、対象は生成AI施策全般(エージェントはその先端として26%が本格探索中)。エージェント固有の回収期間を職能別に示したものではありません。それでも、少なくともこの母集団の最先行施策では、職能によってROI評価に差が観測されています。

データ: エージェントの現在地と初年度回収 — Google Cloud 調査

エージェントに焦点を当てた大規模一次データとしては、Google Cloud が National Research Group と実施した「The ROI of AI 2025」(2025年9月公表)があります。24カ国・生成AIを導入済みの企業の経営幹部3,466名が対象です。

  • 経営幹部の52%が「自社はAIエージェントを業務で活用している」 と回答。39%は10体以上のエージェントを稼働させています
  • 生成AI導入企業の74%が「初年度内にROIを実現した」 と回答
  • 将来AI予算の50%以上をエージェントに振り向ける「先行導入層」(回答者の13%)では、88%が少なくとも1つの用途でROIを実感

そして用途別に見ると、ROIの自己申告率に差が見られます。

用途 ROI実現率(先行導入層) ROI実現率(全体平均)
カスタマーサービス・顧客体験 43% 36%
マーケティング 41% 33%
セキュリティオペレーション 40% 30%
ソフトウェア開発 37% 27%

エージェント先行導入層と全体平均の用途別ROI実現率

エージェントを大規模に展開する先行導入層は、4用途すべてで全体平均を上回りました。

先行導入層

  • カスタマーサービス・顧客体験
    43%
  • マーケティング
    41%
  • セキュリティオペレーション
    40%
  • ソフトウェア開発
    37%

全体平均

  • カスタマーサービス・顧客体験
    36%
  • マーケティング
    33%
  • セキュリティオペレーション
    30%
  • ソフトウェア開発
    27%

Google Cloud委託調査の自己申告値です。母集団は生成AI導入済みのグローバル企業で、先行導入層は将来AI予算の50%以上をエージェントへ配分し、業務へ深く組み込む13%の回答者群です。

エージェントの導入先として最も多いのもカスタマーサービス(49%)で、マーケティング(46%)、セキュリティオペレーション(46%)、テクニカルサポート(45%)が続きます。導入が多い用途とROI報告が多い用途はおおむね重なっています。ただし、この横断調査だけでは、先行導入がROIを高めたのか、ROIを見込みやすい用途だから導入が進んだのかは区別できません。

この調査の limitations も明確です。母集団は「すでに生成AIを導入している企業」の幹部に限られ、未導入企業は含まれません。ROIは財務諸表ではなく自己申告であり、調査主体がAIベンダーである点も割り引いて読む必要があります。同一設計の調査内で用途別の差は確認できますが、Deloitteとは母集団・設問・対象技術が異なるため、互いを直接検証するデータではありません。

なお Google Cloud の2026年版調査(幹部2,403名、2026年7月公表)では、84%が「AIから財務的リターンが増えている」と答える一方、リターンが年々加速している企業は26% にとどまりました。この「ROI Leaders」に共通する実践として同調査が挙げるのは、AI・エージェント施策の明確なオーナーシップ(48%が意思決定権限を明確化)、中核業務ワークフローへの組み込み、役割に応じたAI習熟の必須化(38%)の3つです。これらの運用実践はリターン加速との関連が観測されていますが、横断調査のため因果は示していません。

データ: 期待と資金は実績に先行する — BCG AI Radar 2026

BCG が16市場・9業種の経営幹部2,360名(うちCEO 640名)に行った AI Radar 2026(2026年1月公表)は、投資側の温度感を示しています。

  • 企業は2026年のAI支出を前年比で倍増させる計画(売上比約1.7%)。金融は2.0%、テクノロジーは2.1%、産業財・不動産は0.8%と業種差も大きい
  • 回答したCEOは、組織のAI投資のうち3割超をエージェント(agentic AI)領域に配分
  • CEOの90%が「エージェントは2026年中に測定可能なROIをもたらす」 と期待
  • CEOの94%は「1年以内に回収できなくても現在以上の水準で投資を続ける」と回答

注意すべきは、これらが実績ではなく期待と計画だという点です。BCGの2026年計画とDeloitteの2024年調査は母集団も時点も異なるため、両者の差を「期待と実績のギャップ」として定量化はできません。ただ、CEOの期待が高い一方で、職能によってROI評価が割れていることは、導入後に業務別の実績を検証する必要性を示します。

岡崎の分析

これら主要3社の調査を並べると、「エージェントは結局ペイするのか」という問いは、問いとして粗すぎます。Deloitte の生成AI施策全般では職能別の差が見られ、Google Cloud のエージェント調査では用途別の差が見られました。調査設計が異なるため数値を直接合算はできませんが、「エージェントはペイするか」ではなく「この業務に置いたエージェントは、どの指標でペイしたと判定するか」まで分解して初めて、投資判断になります。

では何が職能差を生んでいるのか。私たちは検証すべき仮説を3つに分けています。第一にタスクの反復性——同型の判断が大量に発生するほど、自動化できる処理量は大きくなります。第二に誤りの許容度と検証コスト——財務や法務では人間の確認が残りやすく、削減工数だけで評価しにくくなります。第三にAIを受け入れる下地——Deloitte がサイバー領域について挙げたように、既存のAI・自動化経験を評価や監視へ流用できる可能性があります。これらは本レポートの分析枠組みであり、これらの調査が因果関係を証明したものではありません。

もう一つ見落とせないのは、Google Cloud 2026年版で、84%がリターン増を報告する一方、年々加速しているのは26%だったことです。同調査では、この26%の ROI Leaders に、明確なオーナーシップ、ワークフローへの組み込み、継続的なAI習熟という共通傾向が見られました。ただし横断調査であり、これらの実践が加速を生んだという因果は示していません。

日本の中小企業では、同時に試せる施策数が限られる可能性があります。だからこそ、最初の候補を小さく検証し、1件の結果だけで全社的な可否を判断しないことが重要です。BCGの投資配分をそのまま模倣せず、自社の測定可能性・リスク・既存基盤に合わせてください。

提言 — どう付き合っていくか

  1. 導入順序を「測定しやすい業務から検証する」方針で設計する。 カスタマーサービス、セキュリティ運用、IT・ソフトウェア開発、マーケティングを検証候補とし、自社で測定可能性・リスク・既存基盤を確認します。財務はDeloitteで期待割れが期待超過を上回った一方、法務・人事には職能別ROI比較がないため、正確性・監査・権限リスクに基づき個別判断してください
  2. 候補業務は3つの問いで採点する。 (1) 同型のタスクが毎週大量に発生するか(反復性)、(2) 誤りをやり直せるか・検証は軽いか(許容度)、(3) その部門に自動化・データ活用の運用経験があるか(下地)。3つとも Yes の業務が最初の1手です
  3. 回収の物差しを導入前に固定する。 Deloitte調査だけでは期待割れの原因を特定できません。だからこそ「何ヶ月で、どの工数・どの指標がどれだけ変わったら継続か」を先に決め、Google Cloud調査の ROI Leaders に倣って責任主体と意思決定権限を明確にしてください
  4. 厳格な検証を要する職能には時間軸の別枠を与える。 Deloitte では70%がROI課題の解消に12ヶ月以上かかると見つつ、76%は価値目標未達の生成AI施策への投資を減らすまで12ヶ月以上待つと答えています。財務など正確性・監査要件の高い職能は、四半期のROIだけでなく「検証工数の推移」など先行指標も管理する構えが現実的です

私たちフィールフロウは、AIエージェントの価値を会社単位だけでなく、業務単位の指標で検証すべき段階に入ったと見ています。導入順序の設計こそ、2026年の経営者が持つべき判断軸です。


本レポートは公開されている一次情報のみに基づく分析です。各数値の調査設計・母集団・設問の詳細は、末尾の出典から一次情報をご確認ください。

出典・参照データ

本レポートの分析は以下の一次情報に基づいています。統計・数値の詳細は各出典をご確認ください。

  1. The State of Generative AI in the Enterprise: Generating a new future(第4四半期レポート)
    Deloitte AI Institute

    2024年7〜9月に14カ国・6業種の部長〜C-suite 2,773名を調査。職能別のROI期待比(サイバーセキュリティ44%超過等)、最先行施策の職能分布(IT 28%等)、ROI課題解消の所要期間(70%が12ヶ月以上)を引用

  2. State of Generative AI Q4 — Press Release
    Deloitte US

    上記レポートの公式プレスリリース(2025年1月21日)。公表日とヘッドライン数値(サイバーセキュリティのROI期待超過44%が全職能中最高等)の確認に使用

  3. Google Cloud Study Reveals 52% of Executives Say Their Organizations Have Deployed AI Agents(The ROI of AI 2025)
    Google Cloud

    National Research Group が24カ国の生成AI導入企業の幹部3,466名を調査。エージェント活用率52%、生成AI施策全般の初年度ROI実現74%、エージェント先行導入層の生成AI ROI実現88%、エージェント用途別ROI実現率(カスタマーサービス43%等)を引用

  4. New research shows how AI ROI Leaders prioritize investments for real business outcomes(The ROI of AI 2026)
    Google Cloud

    幹部2,403名を調査した2026年版。財務リターン実感84%に対し加速は26%、ROI Leaders の3つの実践(明確なオーナーシップ48%、ワークフロー組み込み、AIフルーエンシー38%)を引用

  5. BCG AI Radar 2026: As AI Investments Surge, CEOs Take the Lead
    Boston Consulting Group

    16市場・9業種の経営幹部2,360名(うちCEO 640名)を調査。企業のAI投資倍増計画(売上比約1.7%)、CEO回答のエージェント配分3割超・測定可能ROI期待90%・1年で回収しなくても投資削減をしない94%、業種別投資水準を引用