データレポート生成AI若手雇用新卒採用

AIの影響を受けやすい職種の22〜25歳、雇用は「同ペースなら」より19%少ない — 2026年8月改訂「炭鉱のカナリア」で採用・育成計画を組み直す

Stanfordの2026年8月改訂版では、AIの影響を受けやすい職種の22〜25歳の雇用は、影響を受けにくい職種の同年代と同ペースで推移した場合より19%少なく、差は離職の増加ではなく採用の減少で生じています。金融引き締め説などの反論も併記し、日本の新卒採用・離職データと重ねて、若手採用を絞る前に「任せる範囲」と育成を組み直す判断軸を示します。

分析
岡崎 太
CTO / AIアーキテクト
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Key Findings

  • ADP給与データ(月350〜500万人)で、AIの影響を受けやすい職種の22〜25歳の雇用は、影響を受けにくい職種の同年代と同ペースなら到達した水準より19%少ない(2026年6月)。2025年7月時点の15%から拡大した
  • 水準では、22〜25歳のうちAIの影響を受けやすい上位40%の職種の雇用が2022年11月から2026年6月に約11%減、影響を受けにくい下位60%の職種は約10%増。分析サンプル全体は約6%増
  • 差は離職の増加ではなく採用の減少で生じ、自動化型のAI利用が多い職種に集中する。基本給には出ていないが、基本給は賞与・株式報酬を含まない
  • 反論もある。Economic Innovation Groupは金融引き締めによる採用凍結と年齢構成の機械的効果で説明できるとし、著者は2026年2月の応答記事と8月版で反論し、8月版では4点の反証を示した
  • 日本では、AIで新卒採用数は「変わらない」68.8%(リクルートワークス研究所)だが、大卒求人倍率は1.62倍と2年連続で低下し、大卒3年以内離職率は33.8%(厚生労働省)
  • 最初の1業務は、入社2年目までの担当業務を「自動化型」「拡張型」に仕分けて任せる範囲を測ること。採用数の判断はその後に置く

サマリ

「AIで若手の仕事がなくなる」は、この1年で私たちが経営者から最も多く受けた問いのひとつです。2026年8月12日、Stanford Digital Economy Labは「Canaries in the Coal Mine?(炭鉱のカナリア)」の改訂版を公開し、米国の給与データを2026年6月まで延ばして6つの事実を更新しました。論文は、仕事の中身に大規模言語モデルでこなせる作業を多く含む職種を「AI露出度(exposure)が高い職種」と呼びます。本レポートではこれを「AIの影響を受けやすい職種」と言い換えます。仕事がすでに置き換わったという意味ではなく、影響を受ける可能性の高さを表す言葉です。結論は3行にまとまります。

  • 経済全体で雇用が失われている証拠はない。 分析サンプル全体の雇用は2022年11月から2026年6月に約6%増えました
  • ただし22〜25歳のAIの影響を受けやすい職種だけが取り残されている。 影響を受けにくい職種の同年代と同ペースで推移した場合より、雇用は19%少なくなっています。2025年7月時点の15%から差は広がりました
  • 差は離職の増加ではなく「採用しないこと」で生じている。 離職率は影響を受けやすい職種でも下がっており、開いたのは採用率の差です

この論文には反論もあります。Economic Innovation Groupは、同じような年齢別のパターンは「40年で最も急な金融引き締めによる採用凍結」でも生じ得ると指摘しました。本レポートは論文と反論を並べたうえで、日本の新卒採用・離職データと重ね、経営者が明日から使える判断軸に落とします。私たちの結論は、「若手採用を絞る前に、若手に任せている業務の中身を測る」です。

この数字を採用・育成計画に使う3ステップ

論文の事実を、自社で確認できる順番に並べ替えたものです。

  1. 任せる範囲を測る入社2年目までの担当業務を、AIが代替する「自動化型」と、人の判断を補う「拡張型」に仕分けます。論文で雇用が減ったのは自動化型に偏った職種でした。
  2. 若手の仕事を再設計する自動化型に寄った業務は、AIの出力を検証し、顧客や現場に説明する役割へ置き換えます。採用数を減らす前に、仕事の側を変えます。
  3. 育成の指標を置き直す手順を覚えた量ではなく、判断を任せられる範囲で育成を測ります。日本の大卒3年以内離職率は33.8%で、定着はもう一つの制約条件です。

採用を減らすか増やすかの判断は、任せる範囲と育成指標を測ったあとに置きます。数字を先に決めると、育成が壊れてから気づくおそれがあります。

データ: 2026年8月版「6つの事実」

論文の著者はErik Brynjolfsson、Bharat Chandar、Ruyu Chenの3名です。データは給与計算会社ADPの匿名化された給与記録で、2021年1月から2026年6月まで毎月観測できる企業を固定して追跡したデータ(パネル。月350万〜500万人のフルタイム労働者、70歳未満)を使っています。ADPの顧客基盤は2,600万人超ですが、分析に使われたのはその一部です。「2,600万人を分析した」と引用しないよう注意が必要です。

AIの影響を受けやすさ(論文の「露出度」)は、職種ごとのタスクが大規模言語モデル(LLM)で自動化されやすいかを評価したEloundou et al.(2024)の指標で測り、影響を受けやすい順に5等分(各20%)しています。加えてAnthropic Economic Indexの「自動化型(automative)」「拡張型(augmentative)」の利用比率で職種を分類しています。後者は、私たちが8月26日のレポートで「自動化」「拡張」として扱った実利用ログの分類と同じものです。

事実 内容(2026年8月版)
1 経済全体で広範な雇用喪失の証拠はない。分析サンプル全体の雇用は2022年11月〜2026年6月で約6%増、最も影響を受けやすい上位20%の職種でも約4%増
2 22〜25歳のうち影響を受けやすい上位40%の職種の雇用は、影響を受けにくい下位60%の職種の同年代と同ペースなら到達した水準より19%少ない。経験のある年代にはこの差がない
3 差は2025年8月の初版以降、着実に広がった。同じ指標で2025年7月データでは15%、2026年6月データで19%
4 差は主に若手の採用減少で生じており、離職の増加ではない
5 減少はAIが人のタスクを代替する(自動化型)用途が多い職種に集中し、補完する(拡張型)用途が多い職種では雇用は横ばいか増加
6 調整は雇用で起きており、基本給では起きていない

出典: Stanford Digital Economy Lab「Canaries in the Coal Mine?」(2026年8月版)。

データ: 見出しの数字は1年で3回変わった

この論文を引用するとき、最初に確認すべきは「どの版の、どの指標か」です。2025年8月の初版は「13%の相対的減少」を見出しにしました。2025年11月版では「16%」になり、2026年8月版は「19%」です。数字が3回変わったのは、データが延びたことに加えて、指標そのものを変えたためです。

論文はこう説明しています。初版と11月版の13%・16%は、企業ごとの業績変動を統計的に取り除いた回帰推定でした。2026年8月版は、統計モデルを使わず実際の雇用の推移をそのまま比べた「同ペースなら」の差(記述的な差)へ見出しを切り替えました。同じ記述的な指標で測り直すと、2025年7月時点は15%、2026年6月時点は19%です。

版 データの終点 見出しの数字 指標
2025年8月(初版) 2025年7月 13% 企業レベルのショックを調整した回帰推定
2025年11月 2025年9月 16% 同上
2026年8月(現行) 2026年6月 19% 影響を受けにくい職種の同年代と同ペースなら到達した水準との差(記述的)
2026年8月(現行、遡及) 2025年7月 15% 同上

22〜25歳・AIの影響を受けやすい職種の雇用が「同ペースなら」より少ない割合

論文の版ごとに、見出しに使われた数字と指標を並べたものです。

記述的な差(現行版の指標)

  • 2025年7月データ
    15%
  • 2026年6月データ
    19%

回帰推定(旧版の見出し)

  • 2025年7月データ(2025年8月版)
    13%
  • 2025年9月データ(2025年11月版)
    16%

上段と下段は指標が異なるため、13%から19%へ「増えた」とは読めません。同じ指標で比べられるのは上段の15%と19%だけです。出典: Stanford Digital Economy Lab(2026年8月版)。

経営者にとっての含意は単純です。「13%」を引用した社内資料は、すでに2世代前の数字です。引用する際は「2026年8月版、記述的な差で19%」と版と指標を添えるのが、この論文への正しい付き合い方だと考えます。

データ: 水準で見る — 誰が増え、誰が減ったか

相対的な差だけでは、若手全体が減ったのか、一部が減ったのかが見えません。論文が示す水準の変化を、2022年11月を100とした概算の指数に直しました。

対象 2022年11月→2026年6月
22〜25歳・影響を受けやすい上位40%の職種 約11%減
22〜25歳・影響を受けにくい下位60%の職種 約10%増
22〜25歳・全体 約2%減
35〜40歳・全体 約11%増(年齢層で最大)
分析サンプル全体 約6%増
最も影響を受けやすい上位20%の職種・全年齢 約4%増

雇用水準の変化(2022年11月=100、2026年6月時点)

論文本文に記載された「約」付きの変化率から算出した概算の指数です。基準線の100が2022年11月の水準です。

  • 22〜25歳・影響を受けやすい上位40%AIの影響を受けやすい職種の若手
    89(約11%減)
  • 22〜25歳・影響を受けにくい下位60%影響を受けにくい職種の若手
    110(約10%増)
  • 22〜25歳・全体職種を問わない若手全体
    98(約2%減)
  • 35〜40歳・全体年齢層で最大の増加
    111(約11%増)
  • 分析サンプル全体全年齢・全職種
    106(約6%増)
  • 最も影響を受けやすい上位20%・全年齢年齢を問わない、AIの影響を受けやすい職種
    104(約4%増)

指数は論文本文の「約11%減」などの記述から100±変化率で算出した概算で、論文が公表した系列値そのものではありません。区分は互いに重なります(22〜25歳・全体は上位2分位と下位3分位を含む)。出典: Stanford Digital Economy Lab(2026年8月版)。

読み方は2つあります。第一に、若手全体(約2%減)はほぼ横ばいで、減っているのはAIの影響を受けやすい職種に就いた若手だけです。第二に、同じ影響を受けやすい職種でも全年齢では約4%増えています。つまり「AIの影響を受けた職種」で減ったのではなく、「AIの影響を受けた職種の入口」で減ったというのが、この論文の骨格です。

この骨格を支えるのが事実5(Fact 5)です。論文は、職種ごとの「自動化型」利用比率が1標準偏差(職種間のばらつき1単位分)高いとき、2022年11月から2026年6月の雇用変化率がどれだけ変わるかを年齢別に推定しています。利用比率はAnthropic Economic Index 2025年3月版、雇用加重です。

年齢層 自動化型利用の係数 拡張型利用の係数
22〜25歳 −0.098(1%水準で有意) 0.016
26〜30歳 −0.036(1%水準で有意) 0.010
31〜34歳 −0.017 0.014
35〜40歳 −0.014 0.004
41〜49歳 −0.008 0.024(5%水準で有意)
50歳以上 −0.006 0.015(10%水準で有意)

係数は正負を含むため棒グラフにはせず、表で示します(「有意」は、その差が偶然とは考えにくいことを示す統計上の目安です)。自動化型の係数は若いほど大きな負の値で、年齢が上がるとゼロに近づきます。拡張型の係数はどの年齢層でも正で、41歳以上では統計的に有意です。「AIが代替する仕事を任されていた若手」に影響が集中した、という説明と整合します。出典: Stanford Digital Economy Lab(2026年8月版、Fact 5 の表 Panel A)。

データ: 反論と応答 — 金利か、AIか

この論文は、公開直後から強い反論を受けてきました。代表的なものがEconomic Innovation Group(EIG)に掲載されたIscenkoとCurto Milletの「Looking for the Ladder」(2026年1月)です。彼らの批判は2025年8月の初版を対象に書かれ、公開時点の最新版の見出しである「16%」(2025年11月版)を引いて、次の3点を挙げています。

  1. 採用の減少はAIより先に始まっていた。 Lightcastの求人データでは、最も影響を受けやすい上位20%の職種の求人は2022年3〜4月にピークを打ち、その後の年内に急減した。ChatGPT公開(2022年11月)より半年以上前である
  2. 年齢構成の機械的な効果で再現できる。 22〜65歳が均等にいる職種で、解雇ゼロのまま1年間だけ採用を止めると、22〜25歳の雇用は25%減る。採用凍結がAIの影響を受けやすい職種で最も急だったなら、AI論文と同じパターンが出る
  3. AIの影響を受けやすい職種と金利に敏感な業種が重なっている。 最も影響を受けやすい上位20%の職種で働く人の約38%は情報・金融保険・専門技術サービスに属し、最も受けにくい下位20%の職種では2%未満。この3業種は資本コストと景気の不確実性に最も敏感なセクターだと彼らは指摘する

EIGは同時に、「この論文が若手に当てた光は間違いなく有益だ」とも書いています。反論は「若手が苦しんでいない」ではなく、「原因の診断が違う」という主張です。

著者側は2026年2月9日の応答記事「Canaries, Interest Rates, and Timing」で、金利上昇では影響を受けやすい職種の若手に偏った減少は説明できないと反論しました。一方で、企業ごと・時期ごとの違いを統計的に取り除いた推定では、差が有意になるのは2024年以降であることも認めています。2026年8月版では、自分たちの分析に注意を要する3点を先に挙げています。影響を受けやすい職種と受けにくい職種の乖離がコロナ禍の前後からあったこと、職種の学歴水準で統制すると推定値が小さくなること、ADPパネルの差が全国調査(ACS)より大きく出ることです。そのうえで4つの反証を示しました。

  • 差は金利がピークを過ぎた後も2026年半ばまで広がり続けた
  • 2022年11月時点で影響を受けやすい職種の相対的な位置はコロナ前の水準に戻っており、その後の減少は「元に戻った」ではなく「下回った」
  • 減少は自動化型のAI利用に、年齢が若いほど大きく現れる。金利・学歴・在宅勤務の説明ではこの年齢勾配は予測できない
  • 米国政府の行政データでも、年齢と業種のAIの影響の受けやすさで見た同じ傾向が確認できる(Tucker, 2026)

第三の視点として、ダラス連邦準備銀行のScott Davisは2026年2月、賃金データから「AIは労働者を助けると同時に置き換えている」と整理しました。全米の雇用が2022年秋から約2.5%増える中、AIの影響を受けやすい上位10%の業種では雇用が1%減り、コンピューターシステム設計(computer systems design)部門は5%減。一方で同部門の名目週給は16.7%上昇し、全国平均の7.5%を大きく上回りました。Davisはこの減少について、25歳未満に集中し年長層の雇用は減っていないというStanfordの結果を引いています。

ここで、論文の事実6(Fact 6)「基本給には出ていない」を読むときの注意を添えます。ADPの基本給には賞与、残業代、歩合、株式報酬、チップが含まれません。これらはAIの影響を受けやすく高収入の職種ほど大きく、賃金調整がここで起きていても観測できない、と論文自身が限界として記しています。さらに同じ企業に留まった労働者の実質基本給は、影響を受けやすい職種のほうが伸びが鈍い傾向も報告されています。「賃金は下がっていない」は、基本給に限った話です。

データ: 日本の現在地

日本で同じことが起きているかを、2025年秋以降に公表された数字で確認します。

AIの進展が新卒採用と育成に及ぼす影響(企業の回答)

リクルートワークス研究所が2026年6月30日に公表した特別調査の回答分布です。

新卒採用数への影響

  • 変わらない
    68.8%
  • 増やす
    7.5%
  • 減らす
    7.5%

育成への影響

  • 研修プログラムの内容を見直す
    34.6%
  • 育成期間が短期化する
    14.7%
  • 育成への影響はない
    22.8%
  • わからない
    32.4%

企業による自己申告の回答分布で、実際の採用実績ではありません。上段は「変わらない」「増やす」「減らす」以外の選択肢を省いており、合計は100%になりません。下段は合計が100%を超えるため単一回答の設問ではありません(設問形式と調査設計の詳細は出典の報告書を参照してください)。出典: リクルートワークス研究所(2026年6月)。

リクルートワークス研究所の特別調査では、AIなどの進展が新卒採用数に及ぼす影響を「変わらない」と答えた企業が68.8%、「増やす」が7.5%、「減らす」が7.5%でした。一方で育成については「研修プログラムの内容を見直す」が34.6%、「育成期間が短期化する」が14.7%です。AIの今後の人材・採用戦略への影響について「議論が始まっている」は35.5%、「議論を踏まえ、人材・採用戦略に反映させている」は6.5%にとどまります。

つまり日本の企業は、採用数は変えないが、育成の中身は変えると答えています。米国の論文が示した「入口が閉じる」現象は、少なくとも意図としては日本でまだ起きていません。

ただし、入口の需給には別の前兆があります。同研究所の大卒求人倍率調査では、2027年卒の求人倍率は1.62倍で、2026年卒の1.66倍から0.04ポイント低下し、2年連続の低下です。売り手市場は続いていますが、傾きは下向きに変わりました。2026年4月入社の大卒平均初任給(月額)は23.7万円と4年連続で増えており、「採用数は維持、単価は上昇」という構図です。

もう一つの制約が定着です。厚生労働省の集計では、令和4年3月に卒業した大卒者の3年以内離職率は33.8%(前年比1.1ポイント低下)でした。事業所規模による差が大きく、1,000人以上では27.0%、5〜29人では52.0%、5人未満では57.5%です。

大卒者の3年以内離職率(令和4年3月卒業者、事業所規模別)

就職後3年以内に離職した大卒者の割合を、就職先の事業所規模で分けた値です。

大卒全体

  • 全体
    33.8%

事業所規模別

  • 1,000人以上
    27%
  • 500〜999人
    31.5%
  • 100〜499人
    33.9%
  • 30〜99人
    41.9%
  • 5〜29人
    52%
  • 5人未満
    57.5%

令和4年3月卒業者が令和7年3月までに離職した割合です。事業所規模は就職先の規模で、産業や職種の差は含みません。出典: 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」。

米国の論文は「採用しない」ことで若手が減る現象を描きました。日本の従業員30人未満の事業所は、採用してもその半数前後(5〜29人で52.0%、5人未満で57.5%)が3年で離れるという別の形で、同じ「若手の空白」を抱えています。AIで若手の仕事の中身が変わるなら、この離職の数字も動く可能性があります。採用数だけを見ていると、この連動を見落とします。

データの限界 — 引用する前に

  • 因果ではありません。 論文自身が「AIの因果的な影響を推定したものではなく、記述的な事実である」と繰り返しています。「AIが若手の雇用を19%減らした」という表現は論文の主張を超えます
  • ADPパネルには偏りがあります。 製造・卸売が多く小売・宿泊飲食が少ない、従業員10人未満の企業がほとんど含まれない、AIの影響を受けやすい職種が全国より多い、職名が約30%欠損しており補完している、と論文は記しています
  • 全国調査ではもっと小さく出ます。 米国のACS(American Community Survey)で同じ比較をすると、若手の、最も影響を受けやすい上位20%と最も受けにくい下位20%の職種の雇用の伸びの差は−0.022(約2ポイント)で、統計的にはゼロと区別できません。ADPパネルの同期間(2022〜2024年)の値は−0.132(約13ポイント)です。論文はこれを自ら「注意を要する3点」の一つに挙げています
  • 将来予測ではありません。 論文は「この傾向が無期限に続くと主張しない」と明記しています
  • 日本側の数字は自己申告です。 企業調査の回答は意図であり実績ではなく、回答企業の規模や数によって結果は変わります。求人倍率と離職率は実績ベースですが、AIとの因果は示していません

岡崎の分析

私が経営者と話していて感じるのは、この論文が「若手を採るべきか」という問いに使われがちなことです。しかし論文が本当に測っているのは、若手に任せてきた仕事の中身です。

論文の著者は、なぜ若手だけに影響が出るのかについて、一つの仮説を置いています。AIは、教育で身につく「手順書や教科書にできる知識(形式知)」を代替しやすく、経験で身につく「暗黙知」を補完しやすい。だから、若手の頭数を正当化してきた「チェック可能で手順の決まった作業」が自動化され、経験者一人あたりの成果が大きくなる、という説明です。これは私たちが現場で見ている構図と一致します。議事録、一次調査、定型の資料作成、コードの雛形。若手の最初の1〜2年を占めてきた仕事の多くが、いま自動化型のAI利用の中心にあります。

ここで経営判断が分かれます。「若手の仕事がAIに置き換わるなら採用を絞る」と読むか、「若手の仕事の側を変える」と読むか。私たちは後者だと見ています。理由は2つあります。

第一に、論文が示したのは、雇用が減ったのは自動化型の利用が多い職種で、拡張型の利用が多い職種では減っていないという事実です。同じ若手でも、AIの出力を検証し、顧客に説明し、判断の根拠を組み立てる側に立てば、AIは補完材になります。仕事の設計次第で、同じ人が「代替される側」にも「AIで成果を伸ばす側」にもなります。

第二に、日本には米国と違う制約があります。大卒の3年以内離職率が33.8%、従業員30人未満の事業所では半数前後という数字は、採用を絞ればさらに厳しくなる「経験者の供給」の問題です。若手を採らない選択は、5年後の中堅層を自ら細らせる選択です。米国の論文が描く「入口の閉鎖」を日本で再現すれば、コストは人口減少と重なって大きくなります。9月4日に公開した服部の人材サービス業界レポートが扱った「定着」の問題は、この論文の裏面です。

反論についても触れておきます。EIGの「金融引き締めで説明できる」という指摘は、経営者にとって重要です。原因がAIでなくても、若手の入口が閉じたという現象は同じだからです。原因の論争は研究者に任せ、経営者が持ち帰るべきは「自社の若手の仕事は、自動化型と拡張型のどちらに寄っているか」という測れる問いだと考えます。

提言 — どう付き合っていくか

論文の6つの事実と日本の数字に対応させて、5つに絞ります。

  1. 入社2年目までの担当業務を「自動化型」「拡張型」に仕分けて、任せる範囲を測る。 論文で雇用が減ったのは自動化型のAI利用が多い職種でした。自社の若手の業務時間が、AIが代替する定型作業とAIの出力を検証・説明する作業のどちらに何割寄っているかを、1週間の棚卸しで把握してください。これが最初の1業務です
  2. 採用数の判断は、自社版の求人倍率と離職率を並べたあとに置く。 2027年卒の求人倍率は1.62倍で2年連続低下、大卒3年以内離職率は33.8%です。自社の応募倍率と3年定着率を同じ表に置き、採用数を「AIで減らせる」ではなく「定着まで含めて何人必要か」で決めてください
  3. 若手の役割を「AIの出力を検証し、顧客と現場に説明する」側へ再設計する。 論文の仮説では、AIは手順化された作業を代替し、経験知を補完します。若手の1年目に検証と説明の役割を組み込めば、経験知の蓄積を早められます。任せる判断の範囲と、人が最終確認する境界を文書にしてください
  4. 育成の指標を「覚えた手順の量」から「任せられる判断の範囲」へ置き直す。 リクルートワークス研究所の調査に回答した企業の34.6%は研修内容を見直すと答えていますが、戦略に反映させている企業は6.5%です。研修の中身より先に、何をもって育ったと判定するかを決めてください。判定基準がなければ、育成期間の短期化(14.7%)は単なる放置になりかねません
  5. 引用するときは版と指標を添える。 「13%」は2025年8月版の回帰推定、「19%」は2026年8月版の記述的な差です。社内外の資料では「2026年8月版、影響を受けにくい職種の同年代と同ペースなら到達した水準との差で19%、因果ではない」と添えてください。数字の出自を明示できる会社ほど、AIをめぐる議論で信頼を得やすくなります

この論文は今後も更新されます。次の版で数字がどう動くかより、自社の若手の仕事がどちらに寄っているかを先に測っておく。それが、この「カナリア」の使い方だと私たちは考えています。


本レポートは公開データのみに基づく分析です。各数値の調査設計・母集団の詳細は、末尾の出典から一次情報をご確認ください。

出典・参照データ

本レポートの分析は以下の一次情報に基づいています。統計・数値の詳細は各出典をご確認ください。

  1. Canaries in the Coal Mine? Six Facts about the Recent Employment Effects of Artificial Intelligence(August 2026)
    Stanford Digital Economy Lab

    6つの事実、19%・15%の推移、旧版の13%・16%、水準変化、ADP分析サンプルの定義、Fact 5の年齢別係数、基本給の限界、因果ではない旨、ACS比較、注意を要する3点と4つの反証、ADPパネルの偏り、将来予測ではない旨を引用

  2. Canaries, Interest Rates, and Timing
    Stanford Digital Economy Lab

    金利上昇ではAIの影響を受けやすい職種の若手に偏った減少を説明できないとする著者の応答(差が有意になるのは2024年以降とする留保を含む)を引用

  3. Looking for the Ladder: Is AI Impacting Entry-Level Jobs?
    Economic Innovation Group(Iscenko / Curto Millet)

    初版への反論(見出しは2025年11月版の16%を引用)、Lightcast求人の2022年3〜4月ピーク、採用凍結だけで22〜25歳が25%縮む仮想例、影響を受けやすい上位20%の職種の38%が情報・金融・専門サービスに集中する点を引用

  4. AI is simultaneously aiding and replacing workers, wage data suggest
    Federal Reserve Bank of Dallas(Scott Davis)

    全米雇用+2.5%、AIの影響を受けやすい上位10%の業種の雇用−1%、computer systems design部門の雇用−5%と週給+16.7%(全国+7.5%)を引用

  5. 新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)
    厚生労働省

    大卒3年以内離職率33.8%と事業所規模別(5人未満57.5%〜1,000人以上27.0%)を引用

  6. 【特別調査】人口減少・AI時代の新卒採用と育成
    リクルートワークス研究所

    AIなどの進展が新卒採用数に及ぼす影響(変わらない68.8%・増やす7.5%・減らす7.5%)、育成への影響、人材・採用戦略への議論35.5%・反映6.5%を引用

  7. 大卒求人倍率調査(2027年卒)
    リクルートワークス研究所

    2027年卒の大卒求人倍率1.62倍、2026年卒1.66倍から0.04ポイント低下、初任給23.7万円を引用