業種別レポート生成AI自治体公共

【業種別】自治体・公共 — 窓口の「たらい回し」構造を解く

窓口を何度も回されるのは、職員が不親切だからではありません。制度が国の省庁ごとに設計されて降りてくるので、窓口が「住民の用事」ではなく「制度」の単位で切られているからです。生成AIは全1,788自治体へ行き渡りつつありますが、使われている用途の上位は庁内向けの文書が占めます。どこが空いているのかを総務省とデジタル庁の一次統計から整理します。

分析
服部 淳
代表取締役 / 業務変革コンサルタント
公開日
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Key Findings

  • 総務省調査(令和7年10月31日時点・1,788団体すべてが回答)で、生成AIの活用事例の上位5件はあいさつ文案1,292件など庁内向け文書。住民等からの質問に対する回答案の作成は848件で6位だった
  • 総務省行政評価局の先行調査では、死亡に伴う149手続のうち67手続を死亡に関する届出の対象として分類。届出を省略できる15手続のうち12手続で、調査対象の自治体に省略の仕組みが定着していなかった
  • 最初の1業務は、死亡に伴う手続き1件を選び、自庁の例規・要綱・手引きから「この人に該当しうる手続き」の候補一覧をAIに作らせ、職員が確定すること

サマリ

窓口で「それはうちの課ではありません」と言われた経験は、多くの人が持っています。この現象は、たいてい職員の姿勢の問題として語られます。しかし現場を見ると、原因はもっと手前にあります。制度が国の省庁ごとに設計されて降りてくるので、窓口が「住民の用事」ではなく「制度」の単位で切られているのです。住民は1つの出来事を持って来ているのに、受け取る側は制度ごとに分かれています。

総務省行政評価局の「『死亡に伴う手続に係る実態調査』のフォローアップ調査の結果」によれば、死亡に伴う手続は149手続あり、そのうち故人が資格などを失った事実を届け出る「死亡に関する届出」が必要なものは67手続ありました。同調査は、そのうち他の手続で登録された死亡情報を参照できるため届出を省略できるはずの15手続について現場を調べ、12手続で省略の仕組みが定着していなかったと報告しています。制度側が「省略してよい」と決めた後でも、窓口はそのままだったということです。

一方で、生成AIの導入自体は進みました。総務省の「自治体における生成AI導入状況(令和7年度)」によると、導入済みの団体は都道府県と指定都市でいずれも100%、その他の市区町村で45.6%です。ところが用途を見ると、活用事例の上位5件は、あいさつ文案の作成1,292件、議事録の要約1,131件、議会の想定問答の文案の作成1,085件、メール文案の作成1,052件、企画書案の作成997件と、すべて職員が職員のために書く文書でした。住民に向いた「住民等からの質問に対する回答案の作成」は848件で6位です。生成AIは、いま職員の文章を速くする道具として入っていて、住民の用事を解く道具としては、まだそこまで来ていません。

ここが、この業界だけに開いている場所です。民間企業なら、部門をまたぐ用事は組織を組み替えれば解けます。自治体は制度そのものを組み替えられません。組織の縦割りをなくすのではなく、住民の側からは見えなくするという方向にしか解がなく、そしてその作業は「すでに文字になっている制度の文書を横断して読む」仕事です。生成AIが構造的に強い領域が、そのまま残っています。

結論は、最初の1業務を「死亡に伴う手続き1件の、案内の棚卸し」に絞ることです。自庁の例規・要綱・手引きから、この人に該当しうる手続きの候補をAIに挙げさせ、職員が該当を確定する。住民が回る窓口の数と、案内漏れの件数を測る。広げるかどうかは、そこで初めて判断できます。

データ:業界の現在地

都道府県と指定都市は100%、市区町村は半数手前

総務省の「自治体における生成AI導入状況(令和7年度)」は、令和8年4月24日版の資料で、1,788の都道府県・市区町村を対象に令和7年10月31日時点の状況を尋ね、1,788団体すべてから回答を得ています(回答率100%)。全数回答なので、団体区分ごとの割合をそのまま読めます。

生成AIを導入済みの団体は、都道府県と指定都市でいずれも100%、その他の市区町村で45.6%でした。同資料は、その他の市区町村について、実証中・導入予定・導入検討中を含めると約88%が導入に向けて取り組んでいるとしています。

団体区分別 生成AIを導入済みの団体の割合

令和7年10月31日時点で「導入済」と回答した団体の割合を、団体区分別に表示しています。

  • 都道府県令和7年度調査
    100%
  • 指定都市令和7年度調査
    100%
  • その他の市区町村令和7年度調査
    45.6%

総務省「自治体における生成AI導入状況(令和7年度・令和8年4月24日版)」p.4より、選択肢「導入済」の割合。調査対象は1,788の都道府県・市区町村で、1,788団体すべてから回答を得ています(令和7年10月31日時点)。「その他の市区町村」は指定都市を除く市区町村です。同資料p.3は「その他の市区町村は46%となり、実証中、導入予定、導入検討中を含めると約88%が生成AIの導入に向けて取り組んでいる」と記載しています。導入の有無であり、住民向けの業務で使われているかどうかを示す値ではありません。

都道府県と指定都市は全団体が導入を終えた一方、その他の市区町村は45.6%で半数に届いていません。ただしこの記事で問題にしたいのは、導入したかどうかではなく、導入した団体が、生成AIを何に使っているかのほうです。

職員数は総数だけでなく、部門別の増減を見る

「自治体は人手不足だからAIを」という説明をよく聞きますが、統計はもう少し込み入っています。総務省の「令和7年地方公共団体定員管理調査結果の概要」(令和7年4月1日現在)によれば、地方公共団体の職員数は280万9,298人で、対前年比は2,451人の減少でした。同調査は、職員数は平成6年をピークに減少してきたが、平成29年以降は微増から横ばいの傾向が続いていると整理しています。

注目したいのは部門別の動きです。一般行政部門は950,628人で、対前年比では3,008人の増加でした。同調査によれば、一般行政部門は部門全体では対平成6年比で19%減少しているものの、平成27年以降は11年連続で増加しており、特に防災は約3.7倍、児童相談所等は約3.3倍、福祉事務所および観光は約1.8倍に増えています。

全体の総量が微増から横ばいで推移していても、部門によって職員数の増減は異なります。この統計だけで部署の新設や増員の原因までは判断できません。窓口の負担を考える際も、職員総数だけでなく、担当業務ごとの状況を確認する必要があります。

データ:この業界だけの構造

先行調査の149手続・67届出から、省略可能な手続の運用を見る

総務省行政評価局の「『死亡に伴う手続に係る実態調査』のフォローアップ調査の結果」は、令和5年8月から令和6年9月まで、14都道府県・60市区町村・2後期高齢者医療広域連合を対象に行われた調査です。人が亡くなったときに遺族などが行う手続きについて、届出を省略できる仕組みが現場に根づいているかを調べています。

先行する実態調査では、死亡に伴う149手続のうち、故人が資格などを失った事実を届け出る「死亡に関する届出」の対象として67手続が分類され、さらに3つの型に分けられていました。他の手続で登録された死亡情報を参照できるのに届出の省略が認められていないものが11手続、参照によって省略可能となっているものが21手続、そもそも死亡情報を参照できないなどの理由で省略が認められていないものが35手続です。同調査によれば、このうち11手続は、その後いずれも死亡情報の参照によって届出を省略できる対応がとられました。制度の上では、67手続のうち32手続が「もう届け出なくてよい」状態になっているということです。

家族が亡くなったという1つの出来事に対して、行政の側は制度全体で149の手続に分かれています。全員に149すべてが該当するわけではありません。どれが該当するかは人によって違います。先行調査で届出の対象とされた67手続も、制度上の省略可否と、実際の窓口で省略できるかを分けて確認する必要があります。これが窓口を回らされる構造の正体です。

「省略してよい」と決めた後も、窓口はそのままだった

さらに重要なのは、制度側が省略を認めた後に何が起きたかです。同調査は、その32手続のうち提出先が地方公共団体である15手続(11手続のうち10手続と、21手続のうち5手続)を選んで現場を実地調査しました。結果は、15手続のうち12手続で、地方公共団体において他の手続で登録された死亡情報を参照できるのに、死亡に関する届出を省略していないなどの状況でした。残る3手続についても、省略できることがどの程度認識されているかを手続所管府省が把握していない状況だったと報告されています。

書類の添付についても同じことが起きていました。同調査によれば、15手続のうち6手続では、法令上は死亡の事実を証する書類の添付が不要または省略可能とされているにもかかわらず、地方公共団体で添付を不要としていない、あるいは省略できることを承知していない状況が確認されています。

死亡に伴う手続の内訳と、実地調査で定着していなかった手続数

死亡に伴う手続の総数から、届出が必要な手続、実地調査の対象、省略が定着していなかった手続までを手続数で表示しています。

  • 死亡に伴う手続先行の実態調査による分類
    149手続
  • うち死亡に関する届出が必要先行の実態調査による分類
    67手続
  • うち今回の実地調査の対象省略可能かつ提出先が自治体
    15手続
  • うち省略が定着していなかった実地調査の結果
    12手続

総務省行政評価局「『死亡に伴う手続に係る実態調査』のフォローアップ調査の結果」(令和6年9月25日)図2より。149手続と67手続は先行する「死亡に伴う手続に係る実態調査」による分類です。67手続は3つの型に分かれ、死亡情報を参照できるのに省略が認められていないものが11手続、参照により省略可能となっているものが21手続、参照できないなどの理由で省略が認められていないものが35手続です。実地調査の15手続は、前の2つの型のうち提出先が地方公共団体であるもの(それぞれ10手続と5手続)で、35手続からは選ばれていません。実地調査の対象団体は14都道府県・60市区町村・2後期高齢者医療広域連合で、全国の市区町村を網羅した集計ではありません。各項目は上位の内訳を順に絞り込んだ数で、独立した4つの区分ではありません。

ここから読み取れるのは、職員の怠慢ではありません。制度をまたいで「この人に何が該当するか」を把握する仕事が、誰の担当にもなっていないということです。それぞれの課は自分の制度を正しく運用しています。ただ、その集合が住民から見て1つの用事に戻る場所が、どこにも用意されていません。

手続きの総量も、この構造を裏づけています。デジタル庁の「行政手続等の調査結果概要」(令和7年7月22日)によれば、令和6年度調査で確認された行政手続は75,085種類でした。同調査は国の行政機関26府省等が所管する法令に規定されている全手続を対象としたもので、自治体が窓口となっている手続も含まれます。同調査では、住民や企業から地方自治体等への手続について、オンライン化率が約4割、オンライン利用率が約3割と報告されています。ただし同調査は、地方自治体への申請については各自治体独自の行政手続を含まず、各省庁が把握可能な範囲で調査した結果の集計である点に留意が必要だと注記しています。

生成AIの用途は、庁内の文書に寄っている

では、その構造に生成AIは効いているのでしょうか。総務省の同じ資料で、導入している生成AIの具体的な活用事例を見ると、答えははっきりしています。

自治体が導入している生成AIの具体的な活用事例(上位7件)

令和7年度調査で回答があった活用事例を、件数の多い順に7件表示しています。

  • あいさつ文案の作成令和7年度・複数回答
    1,292件
  • 議事録の要約令和7年度・複数回答
    1,131件
  • 議会の想定問答の文案の作成令和7年度・複数回答
    1,085件
  • メール文案の作成令和7年度・複数回答
    1,052件
  • 企画書案の作成令和7年度・複数回答
    997件
  • 住民等からの質問に対する回答案の作成令和7年度・複数回答
    848件
  • ローコードの作成(マクロ、VBA等)令和7年度・複数回答
    799件

総務省「自治体における生成AI導入状況(令和7年度・令和8年4月24日版)」p.5より、令和7年10月31日時点の件数。「導入済」「実証中」「導入予定」と回答した団体を対象とした複数回答の集計で、団体数ではありません。同資料によれば、この設問の回答対象は計1,323団体、うち回答があったのは1,244団体(回答率94.0%)です。8位以下は計画案の作成731件、マニュアル案の作成730件、翻訳669件と続き、庁内情報の検索は355件でした。

上位5件は、あいさつ文、議事録、議会の想定問答、メール、企画書です。いずれも、住民一人ひとりの用事に答えるために書かれる文書ではありません。式典のあいさつや議会の答弁のように住民が目にするものもありますが、窓口に来た人の「私は何をすればいいのか」に答える文書ではない、という意味です。住民に向いた「住民等からの質問に対する回答案の作成」は848件で6位でした。前年度調査の455件からは伸びており、順位も1つ上がっていますが、上位を占めているのは依然として庁内文書です。

この偏りには理由があります。あいさつ文や議事録は、間違っても直せば済みます。住民への案内は、間違えると申請期限を逃し、受け取れるはずだった給付が受け取れなくなります。結果の重さが違うので、慎重な側から手をつけるのは合理的な判断です。実際、同資料で導入における課題として最も多かったのは「AI生成物の正確性への懸念がある」で、次いで「取り組むための人材がいない又は不足している」、「要機密情報流出の懸念がある」でした。前年度調査では人材不足が1位だったので、先頭が「使える人がいない」から「出力を信じてよいか」へ入れ替わったことになります。人材の悩みが消えたわけではなく、正確性への懸念がそれを上回ったという順位の変化です。

住民の個人情報は、そもそも入れられない

もう1つ、この業界の設計を決定づける数字があります。令和7年度調査から加わった、生成AIに入力してよい情報の範囲です。

生成AIに入力可能とされている情報資産の機密性分類

ガイドラインを策定済みと回答した自治体が、生成AIに入力してよいとしている情報の区分を団体数で表示しています。

  • 自治体機密性1に相当する情報令和7年度・複数回答
    654団体
  • 自治体機密性2に相当する情報令和7年度・複数回答
    293団体
  • 自治体機密性3Cに相当する情報令和7年度・複数回答
    59団体
  • 自治体機密性3Bに相当する情報令和7年度・複数回答
    49団体

総務省「自治体における生成AI導入状況(令和7年度・令和8年4月24日版)」p.12より。回答対象はガイドラインを「策定済」と回答した自治体(853団体)からの複数回答で、合計は策定済の団体数と一致しません。区分は数字が大きいほど取り扱いの制約が強くなります。同資料は、3Cに相当する住民の情報について文書管理システムや財務会計システムで扱うものなどを挙げ、3Bを生成AIの外部サービスで利用する場合は原則として閉域網でガバメントクラウドやISMAPのサービスを利用することになる、と注記しています。図示していない「その他」は69団体でした。

読み方は単純です。住民一人ひとりの情報を生成AIに入れてよいとしている自治体は、ごく少数にとどまります。同資料が住民の情報として例示している3Cに相当する情報を入力可能としているのは59団体、より制約の強い3Bは49団体で、機密性1の654団体とは桁が違います。

これは制約であると同時に、設計の答えでもあります。住民の相談内容をそのままAIに渡す形は、多くの自治体では最初から選べません。一方で、例規・要綱・事務の手引きは、すでに公開されていて個人情報を含みません。この業界で生成AIを住民サービスに向けるなら、入口は住民の情報ではなく制度の文書の側になります。

自庁の知識を読ませている団体は、まだ限られる

その制度の文書を、実際に読ませている団体はどれくらいあるでしょうか。同資料によれば、導入している生成AIをカスタマイズしている件数は390件、カスタマイズしていない件数は1,353件でした。カスタマイズの方法は「生成AIのモデルはそのままで、外部ソースとして業務知識を参照させている」いわゆるRAGが329件で最も多く、APIによる構築が24件、ファインチューニングによる構築が19件です。

参照させている業務知識は、回答の多い順に「マニュアル」「議会会議録」「法令」「FAQ集」「計画」でした。法令とFAQ集が上位に入っている点は、制度の側の文書を読ませる動きがすでに始まっていることを示しています。ただし全体としては、大半の導入がカスタマイズなし、つまり汎用の文章作成の道具として使われているのが現在地です。

制度側の文書を大元にして、該当しそうな手続きを挙げる

ここで、住民の相談内容をそのままAIに投げて「あなたはこの手続きです」と答えさせる形にすると、この業界の問題は解けません。確認していない要件を、もっともらしい文章で埋めてしまうからです。行政の案内では、その1文が住民の申請期限に直結します。

そこで、参照させる大元を制度の側の文書に置きます。自庁の例規、要綱、事務の手引き、様式の記入例、担当課の一覧です。ここに載っているのは、すでに文字になって決裁を通った内容だけで、AIが使ってよいのもその範囲です。AIの仕事は、住民の用事に対して該当しそうな手続きの候補を漏れなく挙げ、どの課が担当かを添えることです。該当するかどうかを決めるのはAIではありません。

制度の文書から、該当しそうな手続きの候補一覧まで出す

AIは候補の列挙と案内文の下書きまで。該当するかどうかの判定、受付、決定は職員が担います。

  1. 制度側の文書を、参照できる形にそろえる自庁の例規、要綱、事務の手引き、担当課と窓口の一覧を、更新日と担当課つきで1か所に集めます。住民の個別事情ではなく、公開されている制度の文書を対象にします。
  2. AIが該当しそうな手続きの候補と案内文を下書きする1つの出来事に対して該当しうる手続きの候補を挙げ、担当課、持ち物、期限、根拠となる規程の箇所を添えます。根拠が見つからない項目は補わずに、確認が必要な事項として残します。
  3. 職員が該当を確定し、決まった内容を文書へ戻す住民の状況に照らして該当するかどうかを職員が判定し、案内として渡します。判断に迷った箇所や、規程に書かれていなかった運用は、次に備えて手引きへ追記します。

AIの役割は、該当しそうな手続きの候補を挙げることと、案内文を下書きすることまでです。該当するかどうかの判定、申請の受付、支給や認定の決定、住民への最終的な説明は職員が担います。案内の誤りは住民が申請期限を逃すことに直結するため、AIの出力をそのまま住民へ渡す運用にはしません。

服部の分析

服部の視点でこの業界を整理すると、機会は「職員の文章を速くすること」ではありません。制度をまたいで住民の用事を組み立て直す仕事に、初めて手が届くようになったことにあります。

現場で見た例を匿名化して挙げます。ある市では、転入してきた住民が5つの課を順に回りました。どの職員も丁寧で、自分の制度については正確でした。しかし、次にどこへ行くべきかを住民に伝えられたのは、たまたま長く勤めていた1人だけでした。別の町では、家族を亡くした方に配る手続き一覧が10年以上更新されておらず、廃止された制度と新設された制度がどちらも実態と合っていませんでした。担当課は「全部の課に確認しないと直せないので、手が回らない」と説明しました。どちらも、職員の能力の問題ではありません。横断して見る作業が重すぎて、誰も担当できていないという問題です。

なぜ重かったのか。制度を横断した案内を作るには、各課の例規と要綱と運用を読み合わせる必要があります。これまでは、それをやれるのは各課の実務を知っているベテランだけで、その人たちは通常業務で手一杯でした。亡くなった方の手続きをまとめて案内する窓口が、仕組みの難しさよりもこの読み合わせの重さで足踏みする場面を、私たちは現場で何度か見てきました。

生成AIが変えたのはここです。例規も要綱も手引きも、すでに文字になっていて、公開されていて、住民の個人情報を含みません。横断して読ませるのに最も条件がよい資料です。これは、生成AIによって初めて取りに行けるようになった価値だと考えています。職員を減らすための道具ではなく、住民が回る窓口の数を減らし、案内漏れによる不利益を防ぐための道具です。総務省の同じ資料で、生成AIの導入により削減できた時間の使い道は、「業務プロセス改善、IT導入など内部事務の改善検討・実施」が637件で最も多く、「住民対応時間の確保など住民サービスの向上」が622件でこれに続きました(この設問の回答対象には「導入予定」と回答した団体も含まれます)。最多は庁内の改善ですが、住民サービスへ回すという回答がほぼ並んでいることは、現場の意図がすでにそちらも向いていることを示しています。

ここで譲ってはいけないのは、責任の線引きです。案内の誤りは、住民が申請期限を逃し、受け取れるはずだった給付を失うという形で表れます。AIに任せてよいのは、該当しそうな候補を挙げることと、案内文を下書きすることまでです。該当するかどうかの判定、受付、支給や認定の決定は職員が行います。そして、住民の個別事情を外部のモデルへ送るのではなく、制度の側の文書を引く形に設計する。この2つを最初に決めておかないと、課題の1位に「AI生成物の正確性への懸念がある」を挙げた多くの自治体と同じ場所で止まります。

提言 — どう付き合っていくか

1. 最初の1業務を「死亡に伴う手続き1件の、案内の棚卸し」に絞る

新しい窓口を作る話から始めません。すでに自庁にある「死亡に伴う手続きの案内」を1件選び、それを作り直します。自庁の例規・要綱・手引きを読ませ、該当しうる手続きの候補、担当課、持ち物、期限、根拠の箇所を一覧にさせます。職員が該当を確定し、現行の案内と突き合わせます。ここから始めるのは、答え合わせができるからです。現行の案内に漏れや古い記載が何件あったかが、そのまま自庁の現在地になります。総務省行政評価局の調査が15手続のうち12手続で省略の不定着を見つけたように、自庁でも同じ性質の抜けが出るはずです。

2. 参照させる大元を、庁内の文書から制度の文書へ切り替える

多くの団体が最初に読ませるのはマニュアルや議会会議録です。これは庁内向けの作業には効きますが、住民の案内には足りません。例規、要綱、事務の手引き、様式の記入例、担当課と窓口の一覧を、更新日と担当課つきで参照できる形にそろえます。古い規程のまま案内を作らないために、更新日は必ず持たせます。カスタマイズしている件数が390件、していない件数が1,353件という現在地は、裏を返せば、ここに着手するだけで先行できるということです。

3. 誤案内の責任の線引きを、運用を始める前に文書で決める

AIが出した候補をそのまま住民に渡さない、という一線を先に引きます。該当判定、受付、決定は職員が行うこと、AIの出力には根拠の箇所を必ず添えること、根拠が見つからない項目は補わず「要確認」として残すことを、運用ルールとして書きます。生成AIの利用ガイドラインは、総務省調査で策定済みが853団体、策定中が198団体、未策定が737団体となり、令和7年度に策定済みが未策定を上回りました(同じ集計で令和5年度は策定済み359団体に対し未策定1,197団体、令和6年度は647団体に対し1,004団体でした)。ただし同調査で、生成AIを導入済みの団体のうち策定済みは81%、実証中の団体では38%です。住民向けに使うのであれば、庁内向けに使う場合よりも先にこの線引きが要ります。

4. 測るのは削減時間ではなく、住民が回った窓口の数と案内漏れの件数

効果の指標を、職員側の削減時間だけにしません。1つの用事で住民が回った窓口の数、案内で漏れていた手続きの件数、住民が再来庁した回数、案内を作るのに職員がかけた時間を、導入前後で同じ方法で記録します。導入における課題として「導入効果が不明」が引き続き上位に挙がっていることを踏まえれば、住民側の指標を最初から持つことが、次の予算を取るための条件になります。1件で漏れが減ることを確認できたら、転入・転出、出生、障害の受給、介護の順に広げます。

最初から全部の用事を対象にする必要はありません。まず死亡に伴う手続き1件で、制度の文書をそろえる → AIが該当しそうな候補と案内文を下書きする → 職員が該当を確定して住民に渡す → 分かったことを手引きへ戻すという一周を完成させることが、窓口のたらい回しを住民側から見えなくする具体的な一歩です。

出典・参照データ

本レポートの分析は以下の一次情報に基づいています。統計・数値の詳細は各出典をご確認ください。

  1. 自治体における生成AI導入状況(令和7年度・令和8年4月24日版)
    総務省 情報流通行政局地域通信振興課・自治行政局行政経営支援室

    調査概要(令和7年10月31日時点、1,788の都道府県・市区町村が対象で1,788団体すべてが回答)、p.4の団体区分別の導入状況、p.5の活用事例別の件数、p.7の削減時間の活用方法、p.8の課題の順位、p.10とp.11のガイドライン策定状況、p.12の入力可能な情報資産の機密性分類、p.14〜16のカスタマイズ状況・方法・対象業務知識を引用

  2. 「死亡に伴う手続に係る実態調査」のフォローアップ調査の結果
    総務省 行政評価局

    調査概要(令和5年8月から令和6年9月まで実施、14都道府県・60市区町村・2後期高齢者医療広域連合が対象)、図2の死亡に伴う手続149手続と届出が必要な67手続の内訳、実地調査15手続のうち12手続で省略が定着していなかった結果、添付書類に関する6手続の結果を引用

  3. 令和7年地方公共団体定員管理調査結果の概要
    総務省 自治行政局公務員部給与能率推進室

    令和7年4月1日現在の職員数280万9,298人と対前年比2,451人減、一般行政部門950,628人と対前年3,008人増、同部門の対平成6年比19%減かつ平成27年以降11年連続増加、防災約3.7倍・児童相談所等約3.3倍を引用

  4. 行政手続等の調査結果概要
    デジタル庁

    調査概要(国の行政機関26府省等が所管する法令に規定された全手続が対象、フェーズ1は令和6年10月1日時点)、令和6年度調査の行政手続数75,085種類とオンライン化率51.6%、地方自治体等への手続のオンライン化率約4割・オンライン利用率約3割を引用