20年間、作る現場を動かしてきた。ただし、コードは書かない
みのりび合同会社 代表社員 野中あゆみ様は、Webディレクター・プロジェクトマネージャーとして20年以上、企業サイトから自社サービス、ソーシャルゲーム、アプリ開発まで、制作の現場を動かしてこられた方です。要件定義も画面構成も仕様書もご自身で作れる一方、それをコードに落とす工程は、これまでエンジニアやデザイナーに依頼するほかなかったといいます。
状況が変わったきっかけは着物でした。着付けを学ぶうちに和装検定師範を取得され、「タンスの中に何があるか把握できない」「どの帯と合わせたか記憶が曖昧になる」という自分自身の困りごとを解くアプリを、2026年5月に自らリリースされています。
「きもの日和」——着物生活をまるごと支えるiOSアプリ
App Storeで無料公開されているきもの日和は、着物生活を一通り支える6つの機能を備えています。着物・帯・小物を写真付きで登録する箪笥の管理、登録したアイテムを重ねる平置きコーディネートの作成、シーンを選ぶと手持ちから3パターンを提案するAIコーデ提案。さらに、着用の記録を残す着物日記、全国47都道府県の着物店舗検索、現在地の天気から今日の装いを考える機能です。

「きもの日和」の紹介画像(お客様提供)
着物日記には和風月名と二十四節気が表示され、画面の画像も二十四節気に合わせて月2回自動で切り替わります。
技術スタックはFlutterとFirebase。開発の相方はClaude Codeで、AIコーデ提案にはClaude APIが使われています。ランディングページも同じ方法で制作されました。
ただし、アプリのコードはご自身では書きません。やりたいことを日本語で仕様に書き、生成AIに実装してもらい、動かして確認し、違和感を言語化して伝え直す——ふだんのプロジェクト進行とほぼ同じ流れです。
集客はInstagramからの流入だけですが、ユーザーは着実に増えています。「AIで作れるかどうか」の段階はすでに超えていて、作りたいものが形になっている。それが最初に確認できた事実です。
整っていなかったのは、「作る」より後の工程
一方で、作ったものを届けるまでの工程には、まだ整えられる余地がありました。要件を定義してプロジェクトを前に進めることと、自分の手で毎回のリリースを回し続けることは、必要なスキルが違います。
リリースのたびに、ビルドしたファイルを手作業でアップロードする。作業を始めても、どこまで進んだかが記録に残らない。デザインの方針を決める前に画面を増やすと、後から揃える作業が発生する。いずれも、開発が進むほど効いてくる部分です。
そこでフィールフロウは、すでに動いているアプリを止めずに、その周りの工程を整えることを目的に、オンラインでの伴走セッションを実施しました。

セッションの様子。共有していただいた画面はリリース前の確認項目リストで、32項目を画面ごとに検証する運用はすでに定着していました。
支援内容 — 土台、履歴、自動化、そして安全性
1. 生成AIが毎回同じ前提で動く土台をつくる
プロジェクトの前提を書いたCLAUDE.mdがリポジトリのルートに置かれていないと、生成AIは毎回違う前提で動きます。「指示したはずのことが守られない」という現象の多くは、ここが原因です。
配置場所を整えたうえで、/initによる自動生成と、繰り返す手順をスキルとして保存しておく方法を共有しました。一度書いた手順は、キーワードひとつで同じ品質で再現できます。
2. 作業の履歴が残るワークフローを定義する
Issueを起点にブランチを切り、実装し、セルフレビューを通し、PRを作ってマージする——この一連の流れをワークフローとして定義しました。
定義してしまえば、チャットに「やりたいこと」を書くだけで、あとは順番どおりに進みます。加えて、developを作業の起点にしてリリース時にmainへマージする運用にすることで、「どの変更が公開済みで、どれが作業中か」が常に見える状態になります。作業の履歴、つまりバージョン管理が自然に残る形です。
3. リリース工程の自動化を設計する
これまで手作業だったTestFlightへのアップロードを、App Store ConnectのAPIとCLIを使って自動化する設計を共有しました。マージと同時にアップロードとアップデート申請まで進む構成です。
手作業が一箇所残るだけで、リリースの心理的なハードルは上がります。ここを自動化すると、「直したらすぐ出す」サイクルに戻れます。
4. 公開しているものの安全性を確認する
セキュリティ診断を実施し、対応すべき項目と、何をどう直すかという修正方針を整理してお渡ししました。
なお、検出した項目の内容や箇所は、対象の安全性に関わるため本記事には記載していません。
一人で開発していると、動いているものの安全性は確認しにくくなります。第三者が一度見る工程を挟むだけで、気づけなかった箇所が見つかります。
5. 設計とUXは、最初の一言で決まる
技術選定は、決まったことを生成AIに伝えるのではなく、「何を作りたいか」から一緒に考える方が精度が上がります。決定事項として渡すと、AIはもう疑問を挟まなくなるためです。
また、デザインガイドラインをプロジェクトの初期に決めておくと、画面ごとの不統一は起きません。設計パターンを最初に一言指定すれば、フォルダ構成もそれに沿って整います。
UXについても、「操作に慣れていない人が使う」という前提をプロンプトに入れておくと、入力欄の外をタップしたらキーボードを閉じる、といった明文化しにくい要件をAIが補ってくれます。
お客様の声
みのりび合同会社 代表社員 野中あゆみ様より
エンジニアではない自分がAIをなんとなく使って、なんとなく分かった気になっていた部分を、AI駆動開発として最初からきちんとセッティングできることを知れたのが一番の収穫でした。CLAUDE.mdを置いて前提をそろえたり、普段やっている手順をスキル化したりすることで、毎回イチから説明しなくても同じ品質で動いてもらえるという体験は新鮮でした。
セキュリティ診断で第三者の目線から確認してもらえたのも安心材料になりましたし、Gitワークフローが整理されたことで「今どこまで公開されていて、どこが作業中なのか」が自分でも把握しやすくなったのは地味に助かっています。TestFlightへのアップロードが自動化されて、マージすればそのまま進む状態になったのも手間が減って良かった点です。
個人的に一番印象に残ったのは「設計やUXは最初の一言で決まる」という話で、プロンプトに「操作に慣れていない人が使う」という前提を入れるだけで、自分では言語化しきれていなかった要件までAIが拾ってくれると知れたのは、今後の指示の出し方を見直すきっかけになりました。
セッションを終えて
作りたいものを言葉にでき、優先順位も自分で判断できる——この土台があったからこそ、整えるべき対象がワークフローとリリース工程だと早い段階で絞れました。
野中様からは、次のアプリ開発ではAI駆動開発を最初から取り入れたいというお話をいただいています。
専門のエンジニアでなくても、生成AIとともに自分のサービスを作り、公開し、育てていく。本事例は、フィールフロウの市民開発 AI伴走コンサルティングが支援する働き方の実例です。

