サマリ
冠婚葬祭では、同じ商品名を選んでも、家族が望む式になるとは限りません。誰に感謝を伝えたいか、どのように送りたいか、誰の意向を先に確かめるか。商品一覧からは分からない条件を、打合せで形にする仕事です。本稿では結婚式と葬儀を取り上げます。
生成AIを使うなら、打合せの回数よりも、家族が大事にしたいことを確認し、納得して選べる時間を増やすことを目標に置きます。相談内容から希望、提供上の制約、まだ決まっていないことを下書きし、担当者が本人たちに確かめる。こうした使い方が、個別の提案を届ける余地を広げると私たちは見ています。
最初の1業務は、初回相談後の「次に確かめること」の整理です。以下の調査は業界の状況を示すものであり、AIによる売上増加や満足度向上を実証したものではありません。
データ:業界の現在地
結婚式は、どの形を選ぶかから相談になる
リクルートブライダル総研「結婚マーケット調査2025」の既婚編は、2024年4月〜2025年3月に結婚した全国20〜49歳の男女821人を集計した調査です。本調査は2025年5月12〜20日にインターネットで実施し、人口動態統計に基づくウエイトバック集計をしています。
同調査では、ウエディングイベント全体の実施率は73.5%、披露宴・ウエディングパーティーは43.1%、結婚を機とした食事会は33.8%でした。いずれも、今後の実施予定で時期や内容がほぼ決まった回答を含みます。
披露宴を前提に演出を足すだけでは、食事会や写真を中心にしたい人の希望を拾えません。この結果から私たちが提案するのは、最初に商品プランを絞るのではなく、「誰と、何を残したいか」を聞き、その後で実施形態を組み合わせる相談です。
葬儀は、準備がない状態からの判断を支える
鎌倉新書「第7回 お葬式に関する全国調査(2026年)」は、2024年3月〜2026年3月に喪主またはそれに準ずる立場を経験した全国40歳以上の男女を対象としています。2026年2月27日〜3月3日にインターネットで調査し、有効回答は2,000件。事前準備をしていなかったという回答は63.8%でした。
結婚の調査とは対象者も設問も異なるため、数値を横並びにして相談の難しさを比べることはできません。ここから考えるべきなのは、準備のある相談だけを前提にしないことです。説明を短くすることと、理解を得ることは別です。担当者が「今決める必要があること」と「後で確かめられること」を分ける支援に、生成AIを使う余地があります。
データ:この業界だけの構造
希望と、式として実施できる条件をつなぐ
結婚式では、新郎新婦の希望、両家の意向、招待する人への配慮を、会場や提供サービスの条件と合わせます。葬儀では、故人について確認できる意向と遺族の希望を受け止め、宗教者、会場、火葬の手配など、関係先と確認すべき条件を整理します。必要な確認は地域、形式、契約によって異なります。
この違いを無視して、共通の質問票を自動送信する運用にはしません。結婚式なら「本人たちの希望と、親族へ相談中のこと」、葬儀なら「今必要な手配と、遺族がまだ判断できないこと」を区別します。未決事項を未決のまま扱えることが、打合せの設計で重要です。
生成AIへ渡すのは、利用を説明したうえで扱う相談メモと、事業者が確認済みのサービス条件です。発言者と確認日を残し、AIの推測で家族全員の同意に書き換えないようにします。宗教上の作法、空き状況、価格は担当者が関係先や最新の資料で確かめます。
相談を、次に確かめることへ変える
提案する運用例です。AIが家族の意向や契約内容を確定する流れではありません。
- 担当者が根拠をそろえる説明済みの相談メモと、確認済みの提供条件を用意する
- AIが確認事項を下書きする希望、制約、未決事項を分け、発言元を添える
- 担当者が家族へ確かめる意向と実施条件を確認し、合意できたことだけを記録する
AIは準備を助けます。式の提案、金額の説明、家族への確認、手配の確定は担当者が担います。
服部の分析
私たちは、冠婚葬祭の付加価値を「選択肢の数」よりも「その選択が本人たちの希望につながっているか」で捉えています。AIで案を増やすだけでは、家族が選びやすくなるとは限りません。担当者が、なぜその案なのかを相談内容に戻って説明できることが必要です。
例えば、結婚式の初回相談で「派手にしたくない」と「祖父母に感謝を伝えたい」が出たとします。これは実在顧客の再現ではなく、提案を説明するための仮想例です。「演出不要」とまとめると、感謝を伝える機会まで消えてしまいます。AIが両方の発言を残し、「大人数の前での演出を避けたいのか」「家族だけで伝える時間を望むのか」という確認案を用意すれば、担当者は次の相談を具体化できます。
葬儀でも、「小さく送りたい」という希望だけで、声を掛けたい人やお別れの仕方まで決めることはできません。故人の思い出をAIで創作せず、遺族から聞けたことと、まだ聞けていないことを分けます。話すことが負担なら、その場で回答を求めず、必要な手配を担当者が説明します。
生成AIで取りに行きたいのは、こうした家族ごとの確認と提案を、担当者が毎回準備できる余地です。丁寧な準備を通じて、希望に合った式の構成や個別サービスを提案できれば、付加価値のある受注につながる可能性があります。ただし、これは事業上の仮説です。追加商品の採用率だけで判断せず、選ばなかった理由も含めて確かめます。
提言 — どう付き合っていくか
1. 初回相談後の確認事項整理から始める
結婚式か葬儀のどちらか、一つの相談窓口を選びます。最初は顧客への自動応答を作らず、担当者が使う確認メモを作ります。利用目的と入力範囲を説明し、不要な氏名や連絡先は除きます。録音を前提にせず、担当者のメモからも始められる運用にします。
2. 希望・制約・未決事項を分ける
各項目に発言元または確認済み資料を付けます。誰の希望か分からない記述や、根拠がない提供条件は「要確認」にします。保存期間と閲覧できる担当者も決め、別の家族の相談内容を提案材料へ混ぜないようにします。
3. 担当者が確かめ、家族が選べる提案へ変える
AIの下書きを担当者が修正してから相談に使います。価格、実施可否、宗教・地域の慣習は人が確認し、合意済みのことと検討中のことを分けて記録します。提案を断る、保留する、相談を追加する選択も残します。
4. 納得して選べたかを確かめてから広げる
確認漏れによる手戻り、説明の分かりやすさ、希望を伝えられたかを振り返ります。準備時間や受注内容も記録しますが、打合せ回数の削減を成功条件にはしません。担当者の修正負担と家族の受け止め方を確かめてから、次の窓口へ広げます。最初に着手するのは、あくまで初回相談後の確認事項整理です。
出典・参照データ
本レポートの分析は以下の一次情報に基づいています。統計・数値の詳細は各出典をご確認ください。
- 結婚マーケット調査2025リクルートブライダル総研
p.2の既婚編の調査条件(2024年4月〜2025年3月に結婚した全国20〜49歳の男女821人、2025年5月12〜20日のインターネット調査、ウエイトバック集計)とp.4の実施率73.5%・43.1%・33.8%を引用。実施予定を含む定義を併記。旧ゼクシィ調査との時系列比較はしない
- 第7回 お葬式に関する全国調査(2026年)鎌倉新書
調査概要(2024年3月〜2026年3月の喪主経験者等、全国40歳以上、2,000件、2026年2月27日〜3月3日のインターネット調査)と調査トピックス③の事前準備なし63.8%を引用。AIの効果を調べた調査ではない


