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by AI侍

VS Code 1.117を読む – BYOK と漸進レンダリングが示すAI開発の次の線

VS Code 1.117は「AI体験の輪郭」を設計し直したリリース

2026年4月22日に公開されたVisual Studio Code 1.117は、派手な新機能を足したというより、AIを組み込んだ開発体験の輪郭そのものを整え直したリリースです。企業が使えるモデル選定の自由度、応答が流れてくる瞬間の体感、そしてターミナルという最も現場に近い場所でのエージェント識別。いずれも「AIと一緒に長時間コードを書き続ける」ときに効いてくる要素ばかりです。 (Visual Studio Code)

直前の1.116がAI運用基盤のアップデートだったのに対し、1.117はその運用上で開発者が実際に触れる面の質を引き上げています。BYOK、漸進レンダリング、サブセッション、エージェントCLIのタイトル表示はいずれも地味ですが、毎日触る箇所です。社内開発環境を設計する立場からも、見落としたくない更新です。 (Visual Studio Code)

BYOKでモデル選定が「企業の意思決定」になる

今回の目玉のひとつが、Copilot Business / Enterprise向けのBYOK(Bring Your Own Key)です。組織の管理者が github.com/settings/copilot/features で「Bring Your Own Language Model Key」ポリシーを有効化すると、メンバーはVS Code内のチャットからOpenRouter、Ollama、Google、OpenAIなどのAPIキーを接続して使えるようになります。拡張機能経由で提供されるプロバイダーも追加できます。 (Visual Studio Code)

これは単なる便利機能ではありません。これまでモデル選定はCopilot側の提供範囲に縛られがちでしたが、BYOKによって「コンプライアンス要件に合うモデルを使いたい」「社内のOllamaで動くオープンモデルを指定したい」「タスクに応じて最適なAPIを切り替えたい」といった要件を、開発ワークフローを変えずに吸収できるようになります。モデル選定が一気に「企業側の意思決定」になったというのが、実務的な意味合いです。 (Visual Studio Code)

一方で、個人利用者にはBYOKは開放されていません。ここは企業導入時の差別化要素であり、私たちが生成AI導入を支援する際にも、Business / Enterprise契約とポリシー設計をセットで検討する材料になります。モデルを選べる自由は、選ぶ責任も伴うからです。 (Visual Studio Code)

チャット応答の漸進レンダリングで、待ち時間の体感が変わる

もうひとつの象徴的な改善が、チャット応答の漸進レンダリング(Incremental rendering of chat responses)です。ブロック単位で応答を流し込みつつ、任意のアニメーションを添えることで、ストリーミング中の見え方を設計できるようになりました。関連する実験設定は次の3つです。 (Visual Studio Code)

  • chat.experimental.incrementalRendering.enabled(既定: true
  • chat.experimental.incrementalRendering.animationStylenone / fade / rise / blur / scale / slide / reveal、既定: fade
  • chat.experimental.incrementalRendering.bufferingoff / word / paragraph、既定: off

buffering はトレードオフが明確です。off は最も速くレンダリングされる一方で、書き途中のMarkdownや文末が崩れた状態が一瞬だけ見えることがあります。逆に paragraph を選べば表示は安定しますが、ブロックが出揃うまでのほんの一呼吸、待ち時間が長く感じられます。自分のストレス耐性とチーム共有時の見え方の両方で、最適解を探すことになります。 (Visual Studio Code)

生成AIの体感品質は、モデルの賢さと同じくらい「表示がどう流れてくるか」で決まります。今回の漸進レンダリングはそこに明示的な設計の手を入れた変更であり、AI機能のUXを磨きたいプロダクト開発者にとっても学びの多い実装です。 (Visual Studio Code)

エージェントセッションのサブセッションと最新順ソート

VS Code Agents(Insidersプレビュー)では、セッションタイトル欄の「+」ボタンからサブセッションを起動できるようになりました。親セッションのコンテキストを保持したまま、並行してリサーチやコードレビューなどの副作業を別セッションで走らせられる構造です。あわせてinline差分がスキャン・比較しやすい表示に整理され、エージェントがコードを書き換えた箇所を読み解く負担が下がりました。OSごとのアップデート体験や、テーマ・セッション一覧・チャット表示の仕上がりも磨かれています。 (Visual Studio Code)

本体のVS Code側でも、エージェントセッションを作成日時または最終アクティビティ時刻で並べ替えできるようになりました。セッションが増えてくると作成日順だけでは目当ての会話を辿りにくくなるため、この変更はエージェント常用者ほど効いてきます。あわせて、エージェントがバックグラウンドで走らせたターミナルコマンドの完了・停止がシステム通知として上がるようになり、別ウィンドウ作業中でも進行状況を拾えるようになりました。 (Visual Studio Code)

これらの改善に共通するのは、「AIを放置しつつ、要所で確実に気づける」状態の整備です。エージェントを業務に組み込む際、常時見張るコストは許容できません。必要な瞬間にだけ注意を引けるかどうかが、運用設計の勝負どころになります。 (Visual Studio Code)

Copilot CLIとエージェントCLIがターミナルの市民権を得た

ターミナルまわりでは、Copilot CLIの起動体験が大きく改善されました。これまでfish(macOS / Linux)やGit Bash(Windows)など、デフォルトシェル以外のプロファイルから起動しようとすると No terminal profile options provided for id 'copilot-cli' というエラーに遭遇していましたが、1.117でこれが解消され、ターミナルパネルから任意のプロファイル上で起動できるようになりました。 (Visual Studio Code)

さらに、Copilot CLI / Claude Code / Gemini CLI といったエージェントCLIが、OSC(Operating System Command)シーケンスで自分のタイトルをターミナルに伝えるようになったことで、VS Code側もそれを拾ってタブに個別のタイトルを表示できるようになりました。これまで複数のエージェントCLIを同時に走らせると、どのタブもひとしなみに node として表示され、探すのに往生することがありましたが、それが解消されます。制御設定は terminal.integrated.tabs.allowAgentCliTitle で、既定では有効です。なお、macOS上のCodexについては、現時点ではOSCタイトルシーケンスを送出していないため検出対象外とされています。 (Visual Studio Code)

地味な変更に見えますが、複数のエージェントCLIを並走させるワークフローが当たり前になりつつある今、ターミナルタブが「何を走らせているか」を直接示してくれることの価値は非常に大きいです。AIエージェントがIDEの外から内から立ち現れる時代に、ターミナルという最古の入出力面が再び前景化している、とも言えます。 (Visual Studio Code)

TypeScript 6.0.3 と「静かな基盤更新」

言語まわりでは、TypeScript 6.0.3が同梱されました。軽微なimportまわりのバグや回帰を潰したリカバリーリリースで、新機能の派手さはありません。ただ、TypeScriptはフロントエンドからNode.jsまで現代的な開発の土台にあり、バージョン更新を怠ると拡張機能側の挙動と噛み合わなくなる場面が出てきます。VS Code本体が同梱版を粛々と上げてくれることは、日常の安定性に直結します。 (Visual Studio Code)

1.117で先に見直したい設定項目

今回まず確認したい設定は、chat.experimental.incrementalRendering.enabledchat.experimental.incrementalRendering.animationStylechat.experimental.incrementalRendering.buffering、そして terminal.integrated.tabs.allowAgentCliTitle です。加えて、組織でBYOKを有効化する場合は、GitHub側のCopilot policy (github.com/settings/copilot/features) を開き、「Bring Your Own Language Model Key」を有効にするところから始めます。 (Visual Studio Code)

個人開発であれば漸進レンダリングとエージェントCLIタイトルから触り、チーム・組織運用ではBYOKポリシー設計を軸に据えるのがおすすめです。1.117は、一気に全部を試すよりも、用途に合わせて順番に取り入れていくほうが価値を引き出せるリリースです。 (Visual Studio Code)

まとめ

VS Code 1.117は、新機能を派手に積み上げるのではなく、AI開発の体験面を丁寧に整えたリリースです。BYOKはモデル選定の主権を企業に返し、漸進レンダリングは待ち時間の体感を設計可能にし、サブセッションとエージェントCLIのタイトル判別は複数作業の並走を現実的にしました。TypeScript 6.0.3の粛々とした更新も、足元の安定を支えています。 (Visual Studio Code)

当社は、生成AIコンサルティング、生成AIを活用したシステム開発、自社プロダクト開発を通じて、こうしたエディタ側の進化をプロジェクトの成果につなげる支援を行っています。VS Code 1.117は、開発者個人にとっても、AI導入を進める企業にとっても、次に組むべき運用の輪郭を考える良い材料になるはずです。 (Visual Studio Code)

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