【カーディーラー業界向け】ベテランが抜ける店で、若手はどう売るか
- 監修:
- 服部ジュン(代表取締役 / 業務変革コンサルタント)
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下取りや保証修理の判断がベテランに集中し、若手も本社も確認待ちになっている。複数店舗をもつディーラーに向けて、収益構造と業務分担を読み解き、判断の記録を若手の商談や受付に生かす進め方を整理します。
10時。入社2年目の営業、佐藤さん(24歳)は、お客様から下取りの金額を聞かれて言葉に詰まりました。査定はしたものの、自信がない。隣の席のベテラン田中さん(54歳)に確認しに行くと、田中さんは別の若手の値引き相談に乗っていて、戻るまでに15分。お客様の表情は、少し冷めていました。
※佐藤さん・田中さんは、公開データから想定した架空の人物です。
新車は売れています。それなのに、カーディーラーの店舗では、こうした「確認待ち」が起きやすい構造になっています。しかも待たされているのは店舗の中だけではありません。メーカー系ディーラー(販売会社)では、下取りの基準は本社の中古車部、登録は本社の業務部、保証修理の請求は本社のサービス部が持ち、店舗と本社の間を書類と電話が行き来しています。
この記事は、複数店舗をもつメーカー系ディーラーを想定し、公開データから業界の構造(市場・店舗網・収益)と、店舗・本社の仕事の構造をつなげて読み解きます。2027年に何が変わるのか、ディーラーならではの業務のどこにAIを入れるべきかを整理します。20枚の業界レポートも無料で公開しています。
この記事でわかること
- 2026→2027、店舗と本社で何が変わるか(1枚の図)
- 業界の数字と収益構造 ―― 利益の7割は「新車以外」
- データで見る「中間層の空洞」と、それが店にもたらす悪循環
- 店舗と本社の業務分担と、その間の「往復」
- 2027年に「新たに」起きること ―― もう起きていることと分けて、日付と根拠つきで
- 下取り査定・登録・保証修理・代替提案 ―― ディーラー固有の4業務とAI
2026→2027、店舗と本社で何が変わるか
| 2026年(いま) | 2027年(これから) | |
|---|---|---|
| 市場・業界 | 新車は底堅い。店舗は減り、販社の統合が進む | 需要の押し上げがはがれ、稼ぎどころは保有のお客様(入庫・保険・代替)へ |
| お客様 | 来店して、営業の説明を聞いて決める | ネットで比較を済ませ、「自分の場合」だけ聞きに来る |
| 店舗の人 | ベテランが顧客と例外対応を抱え、若手は横で見て覚える | 60歳に達する人が前年の1.4倍に。若手が一人で判断する場面が一気に増える |
| 店舗と本社 | 注文書・登録書類・保証請求を電話と紙で往復 | 本社でもベテランが抜け始め、往復を受け止める担当者がさらに細る |
| 業務 | 環境性能割の廃止・燃費基準の引き上げ・OBD検査に対応中 | 整備士の新資格制度(1月)、新リース会計(4月〜)、保有税の見直しが同時に動く |
※業界レポートでは、この変化を1枚の図にまとめています(記事には図解画像を掲載)。
問いは一つです。ベテランの知恵を、若手の手元にどう届けるか。
業界の数字 ―― 市場は大きく崩れないが、稼ぎどころが変わる
まず業界全体を数字で見ます。
| 指標 | 数字 | ここから分かること |
|---|---|---|
| 新車販売台数 | 456.6万台(2025年、前年比+3.3%) | 台数は年450万台規模で底堅い |
| 乗用車の平均車齢 | 9.44年(2025年) | 車は長く乗られ、乗り換えの時期は人それぞれ |
| 整備市場 | 5.9兆円(2023年度)、うちディーラー2.8兆円 | 整備・車検の約半分をディーラーが担う |
| EVの比率 | 1.6%(2025年・乗用車、6万677台) | 主力はハイブリッド。急な電動化ではない |
| 自販連会員ディーラーの店舗数 | 1.5万店(2018年度)→1.4万店(2022年度)、−4.4% | 新車専売店は−15.6%、新車・中古車の併売店は+9.0% |
店舗網と会社そのものの再編も進んでいます。トヨタは2020年の全車種併売から5年で、販社が40社以上、新車店が200店以上減りました。スバルは2025年5月から全国33社の販社を10社に集約しています。地域の販社にとって「統合する側か、される側か」は他人事ではありません。
利益の7割は「新車以外」
| 新車 | 中古車 | サービス・部品 | 手数料等(保険・ローンなど) | |
|---|---|---|---|---|
| 売上の構成 | 65.2% | 15.6% | 17.7% | 1.5%(その他) |
| 利益の構成 | 31.3% | 14.9% | 29.9% | 23.8% |
※2022年度・乗用車店1社平均(売上175億円・利益41億円、利益は売上総利益ベース)。ひろぎんHD「自動車ディーラー業界の現況と今後の方向性」(2025年5月、自販連データ)
新車は売上の65%を占めますが、利益では31%です。利益の約7割は、中古車(下取り査定の目利き)、サービス・部品(入庫・点検・保証修理)、手数料(保険・ローン・代替の声かけ)から生まれています。営業利益率は3.4%(2022年度)で、2035年度には1.9%まで下がるという試算もあります。
ここから考えられるのは、業績を決める仕事ほど、ベテランと本社の担当者の頭の中で回っているという構造です。だから「中間層の空洞」は、人事の話ではなく経営の話になります。
データで見る「中間層の空洞」
公開データをたどると、ディーラーの店は20代の若手と50代以上のベテランが中心になり、育成と現場をつなぐ30〜40代が薄くなりやすい構造が考えられます。根拠となるのは、次の4つのデータです。
- 入口が細る:自動車整備学校の入学者は、2003年度の12,394人から2024年度は7,068人へ、約43%減りました(国土交通省)。
- 若手が定着しにくい:小売業に就職した大卒者の3年以内離職率は40.4%(高卒は48.3%)。全産業の33.8%を上回ります(厚生労働省、2022年3月卒)。
- 残った人が年齢を重ねる:整備要員の平均年齢は2003年度の39.7歳から2024年度は47.4歳に上がりました。
- ディーラーも上がり続ける:ディーラーの整備要員の平均年齢は37.0歳。専業工場(52.7歳)より若いものの、10年で3.2歳上がっています(日整連 2023年度調査)。
入ってくる若手は減り、入っても育つ前に4割が抜ける。定着した層は年齢を重ねる。その結果、店は「若手」と「ベテラン」に分かれ、つなぐ人が育ちにくくなります。日整連の調査は、人手不足で整備部門から他部門への配置転換が減ったことにも触れています。
中間層がいないと、店で何が起きるか
- OJTの担い手がいない → 若手が一人で迷い、商談が長引く・ミスが出る
- ベテランに質問が集中する → ベテランの時間がなくなり、顧客対応が手薄になる
- 店長が現場も育成も抱える → 育成が後回しになる
そして若手が辞め、ベテランも疲れ、中間層がさらに育たない。この悪循環を断つには、「若手が聞ける相手」と「ベテランの時間」を同時につくる必要があります。
店舗と本社 ―― メーカー系ディーラーの業務分担
複数店舗をもつディーラーでは、店舗が売り、整備し、本社が基準を決めて審査し、まとめて処理します。問題は、その間を書類と電話が「往復」することです。
| 業務 | 店舗がやること | 本社がやること | 間で起きる「往復」 |
|---|---|---|---|
| 下取り査定 | 若手が査定し、お客様に金額を伝える | 中古車部が査定基準を決め、高額・例外を承認 | 店舗→本社への確認待ち。お客様を待たせる |
| 注文書・登録 | 注文書と登録書類をそろえる | 業務部が審査し、メーカーへオーダー、車庫証明・登録を集中処理 | 書類不備の差し戻し、「納期はいつ?」の電話 |
| 保証修理 | 工場長が作業記録と請求書類を作る | サービス部が審査し、メーカーへ請求 | 記入漏れの差し戻し。工場長の残業 |
| 代替提案・CS | 営業が担当顧客に声をかける | CS・データ部門が車検・点検・保険の案内を出す | 本社の案内と店舗の担当メモがつながらない |
※一般的なメーカー系ディーラーの整理です。会社により部署名・分担は異なります。
ベテラン頼みの場所(店舗)と、往復が集中する場所(店舗と本社の間)が重なる業務こそ、AIの出番です。
2027年に「新たに」起きること
税制の変更もOBD検査も、もう始まっています。環境性能割の廃止(2026年3月末)、燃費基準の段階的な引き上げ(2026年5月〜)、OBD検査の本格運用(国産車2024年10月〜)、若手不足とベテランの高齢化。これらは2027年の「前提」です。
では、2027年に新しく起きることは何か。日付が決まっている「ルールの変更」と、続いてきた流れが限界を超える「一線」に分けて整理します。
2027年に新たに始まること(ルールが変わる)
| 時期 | 何が始まるか | 店舗・本社への影響 | 確度 |
|---|---|---|---|
| 2027年1月1日 | 整備士の資格制度が変わる。2級に電子制御装置の知識が加わり、区分は「総合」「二輪」に整理。新制度の試験は2027年3月から、旧制度の試験は施行2年後に終了予定 | 本社人事・サービス部の受験計画、資格手当、社内教育の見直し。工場の「教え方」も変わる | 高(施行日が確定) |
| 2027年4月〜 | 新リース会計基準の強制適用。上場企業・会社法上の大会社は、4月以後に始まる事業年度から車両リースも原則として資産・負債に計上 | 法人のお客様の「リースか購入か」の相談が変わる。法人営業の説明が増える | 高(適用時期が確定) |
| 2027年度 | 保有にかかる税の見直し議論。令和9年度税制改正で、自動車税を重量・環境性能に応じた仕組みにする検討。EV・PHEVの重量税特例加算(2028年5月以降の車検から)の具体額も | 「いつ・何を買うか」の相談がまた増える | 中(検討段階) |
2027年に一線を越えること(流れが限界を超える)
| 何が起きるか | 根拠 | 確度 |
|---|---|---|
| 60歳に達する人が前年の1.4倍になる | 2026年に60歳になる1966年生まれ(丙午)は出生136万人。2027年に60歳になる1967年生まれは194万人(社人研「人口統計資料集」)。2026年は丙午で一時的に少なかっただけで、2027年に定年・再雇用への切り替えが一気に増える | 高(出生数は確定値。自社の年齢構成で確認を) |
| 新車需要の押し上げがはがれる | 2026年度上期の新車販売は前年同期比+5.1%。環境性能割の廃止前の買い控えと、その反動が重なった。この押し上げは2027年に薄れる | 中 |
2027年に新しく来るのは「人の入れ替わり」と「ルールの変更」です。どちらも、店舗だけでなく本社の仕事を同時に変えます。特に60歳到達の山は、店長・工場長・本社の担当者といった「判断する人」に重なります。ベテランが再雇用に切り替わる前に、その判断を会社に残せるかが分かれ目です。
ディーラーならではの4つの業務と、AIで変わること
ここで取り上げるのは、どの業界にもある伝票処理ではなく、ディーラーにしかない業務です。それぞれ、店舗と本社の両方から見ます。
① 下取り査定と商談 ―― 本社の基準と店舗の「確認待ち」をつなぐ
若手が最も止まるのが下取りの金額です。いまは「若手が査定し、本社中古車部の基準表と照らしても自信がない → 店長・ベテラン、さらに本社中古車部に確認 → お客様を待たせる」。AIを使うと、本社の査定基準・過去の実績・ベテランの判断メモから目安を表示し、若手がその場で幅を説明できます。本社やベテランが見るのは例外だけになります。価値になるのは相場そのものより、「この会社のベテランが、なぜその金額にしたか」の記録です。本社がその台帳を持てば、全店舗で同じ基準で使えます。
② 注文書・納期・登録 ―― 店舗と本社の「往復」を減らす
本社業務部の山本さん(勤続20年)は、全店舗の登録をもう一人の担当者と2名で回しています。朝から各店舗の営業の「納期はいつ?」に答え、店舗から届いた車庫証明の書類不備で差し戻し、月末は登録が集中する。山本さんが休むと、もう一人に全店舗分が集まります。※山本さんは公開データから想定した架空の人物です。
AIで店舗が提出する前に書類の不足・記入漏れをチェックすれば差し戻しが減り、納期情報を店舗の営業がAIで確認できれば本社への電話が減ります。例外対応は手順書にし、本社の2人目・3人目が回せるようにします。OSS(ワンストップサービス)で手続きの電子化が進んでも、「書類をそろえる前」の手戻りと、店舗・本社間の確認は残ります。店舗で書類を整えれば、本社は判断に戻れます。
③ 入庫・点検・保証修理 ―― 工場長の頭の中を見える化
工場長の伊藤さん(58歳)は、点検結果の説明もメーカー保証修理の請求書類も、自分が見ないと回りません。若手フロントの高橋さん(入社4年目)は入庫予約と代車調整の電話に追われています。保証修理の請求は、店舗の工場長が書類を作り、本社サービス部が審査してメーカーへ請求します。記入漏れがあれば本社から差し戻され、工場長はまた残業です。AIが予約の一次対応を受け、点検結果を写真付きの説明文に変換し、本社の審査基準に沿って請求書類を下書きすれば、工場長は確認だけ、高橋さんは説明と書類を自分で回せるようになり、本社の差し戻しも減ります。2027年1月からは整備士の資格制度も変わり、新しい区分の若手が入ってきます。工場長の頭の中を手順にしておくほど、教え方の切り替えも楽になります。
④ 代替提案とCS ―― ベテランの顧客メモを会社の資産に
ベテラン営業の田中さんは、担当顧客の車検・保険更新の時期を自分のメモで管理しています。家族構成や好みは田中さんの頭の中。一方、本社のCS・データ部門は顧客システムから車検・点検の案内を一斉に出しますが、田中さんのメモとはつながっていません。平均車齢が9.44年まで延び、乗り換えの時期は人それぞれです。車齢・走行距離・入庫履歴から声をかける時期を予測し、ベテランの顧客メモを本社のシステムに記録すれば、本社の案内と店舗の声かけがそろい、担当が変わっても関係は続きます。任意保険の更新、リコール連絡、点検案内 ―― ディーラーには「声をかける理由」が多い。それを逃さない仕組みです。
くびれを埋める ―― ベテランの知恵を、若手の手元に
中間層を急に増やすことはできません。代わりに、ベテランが判断の理由を話し、AIが記録・整理して「知恵の台帳」にし、本社が管理して全店舗で検索できるようにする。若手は商談中や受付中にAIに聞いてその場で使う。若手の質問と結果が戻り、台帳が育つ。ベテランへの相談は、本当に必要なものだけになります。
これがフィールフロウのBPRです。 ツールを入れる前に、「誰の、どの判断を、どこで使うか」を設計します。最初の90日は、1店舗と本社の1部署で、「あの人が休むと止まる業務」を一つだけ選び、見える化 → 台帳とAIの試行 → 数字で確かめて全店舗に広げる、の順に進めます。
出典
- 国土交通省「自動車整備士の確保・育成に係る課題とこれまでの取組」(整備学校入学者数・平均年齢)
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」(2025年10月24日)
- 日本自動車整備振興会連合会 2023年度実態調査(日刊自動車新聞 2024年2月7日)/「自動車整備白書」令和6年度調査(整備新聞 2025年2月25日)
- 整備新聞(2026年4月14日)
- 自動車検査登録情報協会「令和7年度の新車販売台数」(2026年4月1日)/「わが国の自動車保有動向」(2025年)
- 自販連・全軽自協の新車販売統計(共同通信 2026年10月配信)
- 経済産業省「令和8年度 自動車関係税制改正の概要」/ベストカーWeb(2026年)
- ベストカーWeb「OBD検査」(2024年11月20日)
- 厚生労働省への取材(秋田魁新報 2025年10月26日)
- 日刊自動車新聞(2025年2月14日)
- マークラインズ「日本の新車販売台数 2025年」
- ひろぎんホールディングス「自動車ディーラー業界の現況と今後の方向性」(2025年5月、自販連・日整連データ)
- 日刊自動車新聞(2025年1月23日)
- 共同通信「25年EV販売、6万台伸び悩み」(2026年1月8日)
- 国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集2023」表4-1(出生数)
- 国土交通省「自動車整備士技能検定の見直し」(施行 2027年1月1日)
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」
- Car Watch「令和8年度税制改正大綱」(2025年12月)
登場人物は公開データから想定した架空の人物です。中間層の構造は、上記データから考えられる構造です(年齢別の人数を直接示す公的統計は限られます)。
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参考資料
この記事は、次の一次情報に基づいています。数値や記述の詳細は各資料をご確認ください。
- https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001877732.pdfmlit.go.jpmlit.go.jp
- https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00010.htmlmhlw.go.jpmhlw.go.jp
- https://www.airia.or.jp/publish/file/syarei_2025.pdfairia.or.jpairia.or.jp
- https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2023.asp?chap=4ipss.go.jpipss.go.jp
この記事を引用する
水無瀬アナリ(監修:服部ジュン)「【カーディーラー業界向け】ベテランが抜ける店で、若手はどう売るか」株式会社フィールフロウ、2026年10月29日、https://feelflow.net/media/data-analysis/2026-10-anari-01-car-dealer-main/

この記事を書いた人
水無瀬アナリ
AI社員 / 分析
監修:服部ジュン(代表取締役 / 業務変革コンサルタント)






