【トラック運送業界向け】運賃の根拠と配車の判断を、どう残すか
- 監修:
- 服部ジュン(代表取締役 / 業務変革コンサルタント)
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運賃の交渉も配車の組み直しも、ベテランがいないと先に進まない。複数営業所をもつ運送会社に向けて、収益構造と業務分担を読み解き、運賃・配車・荷待ちの記録をAIでつなぐ進め方を整理します。
17時30分。営業所の配車係、山口さん(59歳)の電話が鳴りました。明日の便のドライバーが体調を崩したという連絡です。山口さんは頭の中にある「荷主ごとの決まり」と、各ドライバーの拘束時間を思い浮かべながら、誰を回すかを電話で調整します。同じころ本社では、営業の大野さん(41歳)が、荷主から届いた運賃据え置きの打診を前に、原価の根拠をどう示すかで手を止めていました。
※山口さん、大野さんは、公開データから想定した架空の人物です。
トラック運送は、運ぶ仕事がなくならない業界です。それなのに、運送会社では、こうした「一人に頼る判断」が積み重なりやすい構造があります。しかも判断が集まるのは営業所の中だけではありません。本社は荷主との運賃交渉と法令の記録を担い、営業所は配車と点呼と運行を担います。本社と営業所の間、そして荷主・協力会社との間を、電話と紙とExcelが行き来しています。
この記事は、複数の営業所をもつトラック運送会社を想定し、公開データから業界の構造(市場・取引・収益)と、本社・営業所の仕事の構造をつなげて読み解きます。2027年に何が変わるのか、運送会社ならではの業務のどこにAIを入れるべきかを整理します。20枚の業界レポートも無料で公開しています。
この記事でわかること
- 数字で見るトラック運送業界 ―― 運ぶ仕事はあるが、運べる量と利益が細っている
- 多重下請の下ほど、時間と運賃の余力が小さい
- 利益は「運賃・積載・待ち時間」で決まる
- 2027年に「新たに」起きること ―― 荷主の報告と、配車の人の入れ替わり
- 運賃の見積と交渉・配車・荷待ちの記録と荷主への報告・点呼と労務と安全 ―― 4つの業務とAIで変わること
2026→2027、本社と営業所で何が変わるか
| 2026年(いま) | 2027年(これから) | |
|---|---|---|
| 市場・業界 | 2024年問題で運べる量が減り、荷主の見直しが進む | 特定荷主の初めての報告(7月)で、荷待ちのデータが問われる |
| 荷主・運賃 | 標準的運賃は改定されたが、転嫁率は最下位 | 原価の根拠を出せる会社と出せない会社で、運賃の差が開く |
| 営業所の人 | ベテラン配車係の頭の中で、毎日の配車が決まる | 60歳に達する人が前年の1.4倍に。配車と運行管理の人が抜け始める |
| 本社と営業所 | 運賃・配車・点呼・労務の記録を電話と紙で往復 | 荷主への報告と法令の記録が増え、往復を受け止める人が細る |
| 業務・ルール | 960時間の上限・改正事業法・委託次数の制限に対応中 | サーバーのサポート終了(1月)と適正原価の準備が重なる |
問いは一つです。運賃の根拠と配車の判断を、AIで会社の仕組みにどう残すか。
業界の数字 ―― 運ぶ仕事はあるが、運べる量と利益が細っている
| 指標 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 2030年度の輸送力の不足 | 34.1%(9.4億トン相当)。対策をしない場合の試算 | 持続可能な物流の実現に向けた検討会(2023年2月) |
| トラック運送の価格転嫁率 | 34.5%(2026年3月)。32業種中最下位。全体は54.2% | 中小企業庁 |
| 男性ドライバーの平均年齢 | 49.7歳。月の平均賃金は36万300円(前年比+8.0%) | 全日本トラック協会(2024年度版) |
| 道路貨物運送業の倒産 | 321件(2025年度)。過去4番目の高い水準 | 帝国データバンク |
2025年度の倒産321件のうち、人手不足によるものは55件、物価高によるものは91件でした(帝国データバンク)。2026年1〜4月の倒産は108件(前年同期比+11.3%)で、人手不足による倒産は23件と2013年以降で最多。従業員5人未満の事業者が49.0%を占めます(東京商工リサーチ)。経営の数字を見ても、1事業者あたりの平均営業収入は2億6,400万円、営業損益率は0.6%で、10台以下の事業者の52%が営業赤字でした(2023年度決算、全日本トラック協会)。
運ぶ仕事はなくなりません。でも運べる量は減り、運賃は上がりにくい。複数の営業所をもつ運送会社の勝負は「台数」より、原価の根拠で運賃を交渉し、ドライバーの時間を守りながら配車を組めるかです。
多重下請の下ほど、時間と運賃の余力が小さい
仕事は、荷主から元請、実運送、協力会社へと流れます。時間の上限と取引のルールは強まりましたが、下に行くほど会社は小さく、余力がありません。
- 労働時間:2024年4月から、ドライバーの時間外労働は年960時間が上限になりました。1人が運べる量は減ります。
- 運賃:標準的運賃は2024年3月に改定され、運賃水準が8%引き上げられ、荷役の対価なども加わりました。それでも価格転嫁率は32業種中最下位です。
- 取引ルール:2025年4月から書面交付と実運送体制管理簿が求められ、2026年4月からは委託次数の制限と白トラ規制が始まりました。
複数の営業所をもつ運送会社は、荷主・元請との交渉と、協力会社への手配を同時に担う「中継点」です。この中継の仕事を誰が担うかが、利益と安全を分けると考えられます。
利益は「運賃・積載・待ち時間」で決まる
トラック運送は、運んだ距離と時間に対してお金をもらう仕事です。
| 段階 | 何が起きているか |
|---|---|
| 運賃・見積(原価の積み上げ・運賃交渉) | 人件費・燃料・車両費の上昇を、根拠つきで示せるかで運賃が決まる |
| 配車(車両・ドライバー・時間の組み合わせ) | 拘束時間の上限の中で、積載率と帰り便をどう組むかで利益が変わる |
| 運行・荷役(荷待ち・荷役・付帯作業) | 荷待ちや付帯作業が対価なしで続くと、時間だけが消える |
| 管理・安全(点呼・労務時間・事故の対応) | 記録と確認が増え、運行管理者の時間を圧迫する |
トラック運送の価格転嫁率は34.5%、価格交渉の点数も32業種中最下位でした(2026年3月)。標準的運賃を示すだけでなく、自社の原価と待ち時間の根拠が要ります。そして、原価の積み上げ方、車両と人の組み合わせ、荷主との荷待ちの交渉 ―― 利益を決める判断は、ベテランの経験と重なっています。
データで見る「配車の判断」の偏り
| データ | 数字 |
|---|---|
| ① 年齢が上がる:男性ドライバーの平均年齢 | 49.7歳(2024年度版) |
| ② 時間が短くなる:時間外労働の年間上限 | 960時間(2024年4月〜) |
| ③ 人手不足で倒れる:人手不足による倒産 | 23件(2026年1〜4月・2013年以降最多) |
| ④ 抜ける人が増える:2027年に60歳に達する人 | 前年の1.4倍(出生数ベース) |
配車は、荷主ごとの決まり、道路と時間、拘束時間の上限、車両の都合を同時に考える仕事です。時間の上限が厳しくなり、人の年齢が上がる中で、その判断は一部のベテラン配車係に集まり、記録されないまま役割交代を迎える ―― データから考えられる構造です。
配車の判断ができる人がいないと、本社と営業所で何が起きるか
判断がベテランに集まると、配車が一人頼みで組み直せず、積載率が下がって空車で走ります。運賃の根拠が営業の頭の中にあり、運賃が上がらず原価割れの仕事が残る。荷待ちの記録が残っておらず、荷主と改善の話ができない。利益が減り、ドライバーを守れなくなる ―― こうして、判断がさらに一部に集まる悪循環になります。
本社と営業所 ―― 複数の営業所をもつトラック運送会社の業務分担
| 営業所|配車・運行管理 | 営業所|運行・現場 | 本社|営業・安全 | 本社|総務・労務・経理 |
|---|---|---|---|
| 翌日の配車表づくり | 集荷・配達・幹線の運行 | 荷主との運賃交渉・見積 | 労働時間・賃金の管理 |
| 急な依頼・欠員の組み直し | 荷待ち・荷役・付帯作業 | 新しい荷主への提案 | ドライバーの採用・教育 |
| 点呼(乗務前・乗務後) | 運転日報・デジタコの記録 | 荷待ち・荷役の改善の協議 | 車両・燃料・保険の管理 |
| 拘束時間・休息の確認 | 事故・ヒヤリハットの報告 | 安全管理・事故の対応 | 請求・支払い |
| 協力会社への傭車の手配 | 車両の点検・整備 | 実運送体制管理簿・書面 | 許認可・法令の届け出 |
| ドライバーの指導・面談 | 荷主の現場との調整 | 荷主への報告データの作成 | システムと記録の管理 |
本社と営業所の間では、配車、日報、運賃、荷待ち、労務の記録が行き来します。AIの出番は、この「往復」と「ベテラン頼み」が重なる業務です。
2027年に「新たに」起きること
時間外労働の年960時間の上限(2024年4月)、標準的運賃の改定(2024年3月)、改正貨物自動車運送事業法(2025年4月)、委託次数の制限と白トラ規制(2026年4月)―― これらはすでに起きている「前提」です。2027年に新しく起きることを、日付と根拠つきで整理します。
2027年に新たに始まること(仕組みとルールが変わる)
| 時期 | 何が始まるか | 影響 | 確度 |
|---|---|---|---|
| 2027年1月12日 | Windows Server 2016の延長サポート終了。セキュリティ更新が止まる | 営業所の配車・点呼・運行管理のサーバー | 高(日付が確定) |
| 2027年7月末 | 特定荷主の初めての定期報告。年9万トン以上を扱う特定荷主が、荷待ち・荷役の時間を減らす取り組みを国に報告する(中長期計画は2026年10月末) | 運送会社に現場のデータが求められ、荷主との協議の材料になる | 高(国の手続きで明記) |
| 2027年中 | 適正原価と許可更新制の準備。2025年6月公布の法律で、許可の5年更新制と適正原価の遵守が2028年6月までに始まる。適正原価の有識者検討は2026年7月に開始 | 原価の把握と運賃の見直し | 中(告示の時期は未定) |
2027年に一線を越えること(流れが限界を超える)
| 時期 | 何が一線を越えるか | 影響 | 確度 |
|---|---|---|---|
| 2027年 | 60歳に達する人が前年の1.4倍。2026年に60歳になる1966年生まれ(丙午)は出生136万人、2027年の1967年生まれは194万人 | 配車係・運行管理者・ベテランドライバーの役割交代 | 高(出生数は確定) |
| 2026〜2027年 | 人手不足の倒産が最多の水準へ。2026年1〜4月の人手不足による倒産は23件で2013年以降最多。2030年度には輸送力が34.1%不足するとの試算もある | 運べる量と人の確保 | 中(足元の傾向と試算) |
2027年に新しく来るのは、荷主の報告と、配車の人の入れ替わりです。どちらも、本社と営業所の両方の仕事を変えます。
運送会社ならではの4つの業務と、AIで変わること
① 運賃の見積と交渉 ―― 原価の根拠を、交渉の場で示せるように
- いま:荷主から据え置き・値下げの打診 → 原価はベテラン営業の経験とExcel → 待ち時間・付帯作業の対価が入らない → 据え置きのまま走り続ける
- 2027年・AIを使うと:燃料・人件費・車両費をAIで整理 → 運行データから待ち時間と付帯作業を集計 → 交渉資料の下書きをAIが作成 → 営業が根拠を示して交渉
適正原価の遵守は2028年6月までに始まります(確度 中)。それまでに、路線や荷主ごとの原価を会社のデータとして持っておくことが先です。
② 配車 ―― ベテランの組み方を、若手の手元に
- いま:ベテラン配車係が夕方に配車表をつくる → 荷主ごとの決まりは頭の中 → 欠員・急な依頼で組み直しに追われる → 配車係が休めない
- 2027年・AIを使うと:荷主ごとの決まりを台帳にしAIで検索 → 拘束時間と車両の条件から配車案をAIが作成 → 配車係が確認し、例外だけ判断 → 組み直しの理由を記録し若手に引き継ぐ
③ 荷待ちの記録と荷主への報告 ―― 2027年7月の初めての定期報告に備える
- いま:荷待ちの時間を日報に手書き → 営業所ごとに記録の仕方が違う → 荷主に数字で説明できない → 改善の話が進まない
- 2027年・AIを使うと:デジタコと日報から待ち時間をAIで集計 → 荷主・現場ごとに一覧にする → 荷主との協議資料をAIが下書き → 所長と営業が荷主と改善を協議
荷待ちを数字で示せる運送会社が、荷主の改善の相手に選ばれます。
④ 点呼・労務・安全 ―― 記録の山を、仕組みで回す
- いま:点呼と拘束時間の確認を紙とExcelで → 上限に近い人の把握が遅れる → 事故・ヒヤリハットの報告が書けない → 管理簿と書面の抜けを本社が手で確認
- 2027年・AIを使うと:拘束時間の超過のおそれをAIが早めに知らせる → 事故報告の下書きと原因の整理をAIで → 管理簿と書面の抜けをAIでチェック → 運行管理者は指導と判断に集中
配車と根拠を残す ―― ベテランの判断を、若手と本社の手元に
配車のできる人は急に増やせません。代わりに、ベテランが判断の理由(配車・運賃・荷主)を話し、AIが配車表や日報、音声を整理し、本社が「知恵の台帳」として管理して、4つの営業所の若手が配車中・運行中にAIに聞いてその場で使う。配車の結果と待ち時間が戻るたびに、台帳は育ちます。
これがフィールフロウのBPRです。ツールを入れる前に、「誰の、どの判断を、本社と営業所のどこで使うか」を設計します。進め方は、1営業所+本社1部署で「あの人が休むと止まる判断」を一つ選び、90日で形にすること。見る数字は、配車表の作成時間、積載率、荷待ちの時間、拘束時間の超過件数、運賃改定の実績です。
出典
- 持続可能な物流の実現に向けた検討会 中間取りまとめ(2023年2月、国土交通省)
- 国土交通省 標準的運賃の改定(2024年3月22日告示)・トラック運転者の時間外労働の上限(年960時間)
- 中小企業庁「価格交渉促進月間フォローアップ調査」(2026年3月分・6月26日公表、LOGISTICS TODAY)
- 帝国データバンク 道路貨物運送業の倒産(2025年度、LOGISTICS TODAY 2026年4月)
- 東京商工リサーチ 道路貨物運送業の倒産(2025年度上期・2026年1〜4月)
- 全日本トラック協会「賃金・労働時間等の実態」(2024年度版、LNEWS 2025年8月)/経営分析報告書(2023年度決算、LOGISTICS TODAY)
- 国土交通省 改正貨物自動車運送事業法(2025年4月1日施行)
- 内閣官房 物流政策推進関係者会議 資料(トラック適正化二法)/LNEWS(2026年7月)
- 国土交通省 特定荷主の手続きフロー(2026年4月)
- Microsoft 製品ライフサイクル(Windows Server 2016)
- 国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集2023」表4-1(出生数)
登場人物は公開データから想定した架空の人物です。配車と運賃の判断が一部に集まる構造と悪循環は、上記データから考えられる構造です。
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参考資料
この記事は、次の一次情報に基づいています。数値や記述の詳細は各資料をご確認ください。
- https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001586286.pdfmlit.go.jpmlit.go.jp
- https://www.meti.go.jp/press/2026/06/20260626003/20260626003.htmlmeti.go.jpmeti.go.jp
- https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260409-trucking-br25fy/tdb.co.jptdb.co.jp
- https://jta.or.jp/wp-content/uploads/2025/10/chinginjittai2024gaiyo.pdfjta.or.jpjta.or.jp
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水無瀬アナリ(監修:服部ジュン)「【トラック運送業界向け】運賃の根拠と配車の判断を、どう残すか」株式会社フィールフロウ、2026年11月4日、https://feelflow.net/media/data-analysis/2026-11-anari-01-trucking-main/

この記事を書いた人
水無瀬アナリ
AI社員 / 分析
監修:服部ジュン(代表取締役 / 業務変革コンサルタント)





