VS Code 1.118 を読む – エージェントが自分でコンテキストを取りに行くようになった日

Visual Studio Code 1.118 の更新内容を「エージェントが自分でコンテキストを取りに行く」軸で読み解く。GitHub text search、ワークスペース全体に広がったセマンティック索引、Chronicle、Tool search tool、Agentic search/execution tool、Dedicated context for skills まで、エージェント自律の情報収集ループとトークン経済を実務視点で整理。

著者
AI侍
公開日
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VS Code 1.118 はエージェントの「情報収集ループ」を整えたリリース

2026年4月29日に公開されたVisual Studio Code 1.118は、直前の1.117が「AI体験の輪郭」を整えたのに対し、エージェント側の動作原理に踏み込んだリリースです。主役は、エージェントが指示を待つのではなく、自分でコンテキストを取りに行くための仕組みに集まりました。

本稿では1.118を、「外を探す(GitHub text search)→ 中を理解する(セマンティック索引)→ 自分の過去を読む(Chronicle)→ ツールを取りに行く(Tool search tool / Agentic search/execution tool)→ コンテキストを隔離する(Dedicated context for skills)」という階層で読み解きます。 (Visual Studio Code)

外を探す – GitHub text search で組織全体が一次資料になる

最初に注目したいのが、Copilot に組み込まれた githubTextSearch agent tool です。これはGitHubのリポジトリまたはOrganization全体をgrepスタイルの正確な文字列マッチで検索する agent tool で、エージェントがチャットの流れの中でそのまま呼び出せます。

セマンティック検索が向かない場面は、現場では意外と多くあります。特定のAPI名を使っている箇所を全社のリポジトリから洗い出したい、エラーメッセージの文字列をキーに発生箇所を特定したい、独自に決めた識別子の使われ方を追いたい——こうした「正確な文字列・API名・エラーメッセージ」用途で本領を発揮するのが、grepスタイルの GitHub text search です。

実務的な意味合いとして大きいのは、エージェントが自社のコードベース全体を一次資料として参照できるようになることです。個人OSS開発であれば手元のワークスペースが世界のほぼすべてですが、企業ではモノレポや複数Organization横断、独立リポジトリ群の組み合わせが当たり前です。1.118 の GitHub text search は、その分散したコード資産をエージェント視点でひとつの検索面につなげます。 (Visual Studio Code)

中を理解する – ワークスペース全体に広がったセマンティック索引

外側を grep で押さえる一方で、1.118 ではセマンティック索引(Semantic indexing)が すべてのワークスペースに展開されました。これまで GitHub / Azure DevOps のリポジトリに紐づくワークスペースに限定されていた機能が、一般のローカルワークスペースでも使えるようになっています。

セマンティック索引の価値は、コードに書かれている言葉そのものではなく、意図やふるまいで検索できることにあります。「セッショントークンを検証している箇所」「ユーザー登録時に外部APIを呼んでいる箇所」のような、概念ベースの問いに答えやすくなります。エージェントが自然言語で問いを立て、それをコードベースの実態にひもづけるための要となるレイヤです。

ここで前章の GitHub text search と組み合わせると、検索の役割分担がきれいに見えてきます。正確一致やAPI名・エラーメッセージのクロスリポ検索は GitHub text search、概念や意図ベースのワークスペース内検索はセマンティック索引。エージェントは目的に応じて両方を併用できます。「外」と「中」、「文字列」と「意味」が対称に並んだリリースです。 (Visual Studio Code)

自分の過去を読む – Chronicle がチャット履歴をローカル DB 資産にする

1.118 でもうひとつ目を引くのが、(Experimental) バッジ付きで登場した Chronicle です。Chronicle はチャットインタラクションを ローカルの SQLite データベースに記録 し、チャット内コマンドでセッション履歴を検索 できるようにする機能です。

これまでエージェントとのやり取りは個別セッションごとに閉じがちで、過去にどんな指示を出してどんな結論にたどり着いたかは、人間側の記憶や別途のメモに頼ることが多くありました。Chronicle がチャット履歴をローカルの構造化データに落としこみ検索できるようにすることで、チャット履歴は使い捨てから検索可能なローカル資産へと位置づけが変わります。エージェントが「過去に自分が出した結論」を根拠として参照できる土台にもなります。

設定キーは github.copilot.chat.localIndex.enabled です。Experimental の段階なので、まずは個人ワークスペースで挙動を確かめ、ローカル DB の取り回しに納得した上でチームに広げていくのが現実的でしょう。 (Visual Studio Code)

ツールを取りに行く – Tool search tool と Agentic search/execution tool のトークン経済

1.118 で最も大きなアーキテクチャ変更が、エージェントの「ツールの抱え方」と「サブエージェントへの委譲」です。ここは 2 つの別々の機能を、しっかり区別して読む必要があります。

まず Tool search tool。エージェントが扱う agent tools 群を、「常時利用可能なコア」と「deferred(モデルが要求するまでスキーマをロードしない)」の2グループに分割し、各リクエストに同梱するスキーマを軽量化する仕組みです。公式は “A compact always-available core of ~30 tools, which covers ~88% of tool calls” と説明しており、よく使われるコアを常駐させ、残りは必要時にだけスキーマを取りに行きます。Anthropic models (Claude Sonnet 4.5+ and Opus 4.5+) ではすでにデフォルト有効で、up to 20% in token savings が観測されています。1.118 ではこれを Responses API 経由で OpenAI モデル(GPT-5.4 and GPT-5.5)にも展開しはじめました。OpenAI モデルでの有効化キーは github.copilot.chat.responsesApi.toolSearchTool.enabled です。 (Visual Studio Code)

そのうえで別機能として登場するのが、Agentic search tool と Agentic execution tool です。これはメインのエージェントから、コードベース探索とコンテキスト取得を別 subagent(Agentic search tool)に、ターミナルコマンド実行(テスト・ビルド等)を別 subagent(Agentic execution tool)に委譲する仕組みです。メインエージェントは必要なコンテキストを自然言語で記述すれば、search tool が引き継いで取りに行きます。公式は “After over a month of flighting, we are seeing promising results, with token savings of up to 20%” と報告しています。Tool search tool の 20% と Agentic search/execution tool の 20% は別メトリクスで、前者は Anthropic モデルでのツールスキーマ削減、後者は subagent 委譲による flighting 結果です。 (Visual Studio Code)

トークン削減はコスト最適化に見えがちですが、本質は継続可能性です。BYOK でモデル選定の主権を企業に返した 1.117 の延長線上で、1.118 はそのモデルを長く使い続けるためのトークン経済を整えにきた、と読むと位置づけがはっきりします。

コンテキストを汚さない – Dedicated context for skills という隔離設計

1.118 にはもうひとつ、(Experimental) バッジ付きの重要な機能があります。Dedicated context for skills です。スキルを専用の subagent コンテキストで実行してメイン会話から分離する仕組みで、SKILL.md の frontmatter で context 属性を設定することで有効になります。設定キーは github.copilot.chat.skillTool.enabled です。

スキルは強力ですが、出力が大量だったり中間生成物を多く吐いたりすると、メイン会話のコンテキストウィンドウを圧迫します。Skills の専用コンテキストはその出力をメイン側から見えない場所で処理し、必要な結果だけを返す設計です。エージェントの能力が伸びるほどやってくれる作業の幅は広がりますが、全部をメイン会話に流し込むと意思決定の文脈がノイズに埋もれます。メイン会話を汚さずに大きな処理を任せるためのアーキテクチャを、エディタ側から提供しはじめた変更です。 (Visual Studio Code)

1.118 で確実に確認できる設定項目

公式リリースノートで設定キーが明記されているのは、次の 3 つです。

  • github.copilot.chat.localIndex.enabled(Chronicle)
  • github.copilot.chat.skillTool.enabled(Dedicated context for skills)
  • github.copilot.chat.responsesApi.toolSearchTool.enabled(Tool search tool / OpenAI モデル)

これ以外の機能(GitHub text search、Semantic indexing、Agentic search/execution tool)については公式リリースノートに設定キーの明記がないため、VS Code の設定 UI または個別ドキュメントで確認するのが安全です。Experimental バッジ付きの Chronicle や Dedicated context for skills は、個人ワークスペースで挙動を見極めてからチームに広げる、という二段階が無理のない取り入れ方です。 (Visual Studio Code)

まとめ – 自律するエージェントの条件は「探す力」と「忘れる仕組み」

VS Code 1.118 を貫いているのは、自律するエージェントの条件として「探す力」と「忘れる仕組み」を同時に整えたことです。GitHub text search とセマンティック索引で外と中を見渡し、Chronicle で過去を再利用可能にし、Tool search tool と Agentic search/execution tool でツールとサブエージェントを軽く呼び出し、Dedicated context for skills でメイン会話を守る。情報収集と境界線の両輪が揃ったのが 1.118 です。

1.117 が BYOK でモデル選定の主権を企業に返したのに対し、1.118 はそのモデルを動かす情報収集ループを設計した、と並べると流れが見えてきます。当社は、生成 AI コンサルティング、生成 AI を活用したシステム開発、自社プロダクト開発を通じて、こうしたエディタ側の進化をプロジェクトの成果につなげる支援を行っています。 (Visual Studio Code)

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