VS Code 1.119 はエージェントを「長く、安心して動かす」ための地ならし
2026年5月6日に公開された Visual Studio Code 1.119 は、リリースノートの序文がそのまま読みどころです。テーマは「スムーズなエージェント操作、可観測性の強化、信頼とセキュリティ制御の効率化」。1.118 がエージェントの情報収集ループ(GitHub text search / セマンティック索引 / Chronicle / Tool search tool)を整えたのに対し、1.119 はそのエージェントを 長時間・自律的に動かしても破綻しない境界線と監視レイヤ にフォーカスしています。
そのうえで実務寄りの嬉しい改善として、これまで拡張プラグインに頼っていた Markdown プレビューの開閉が標準のツールバーボタンとコマンドで完結する ようになりました。本稿ではエージェントまわりの大物機能を順に読み解きつつ、最後に Markdown 周りのアップデートにも触れます。 (Visual Studio Code)
境界線その1 – エージェントとブラウザの間に明示的な許可を挟む
1.119 でまず目を引くのが、エージェント–ブラウザインタラクションの再設計です。エージェントがブラウザへのアクセスを要求すると、VS Code 側がそれを検出して、開発者に明示的に許可を求めるフローに変わりました。許可するまではエージェントはブラウザにアクセスできません。
承認されたあとの共有方法も整理されています。ブラウザタブを ドラッグ&ドロップ で渡したり、コンテキストメニュー から共有したりと、開発者が能動的に「いま見ている画面」をエージェントに渡せるようになっています。エージェントが勝手にブラウザを覗く構図ではなく、開発者がスコープを切って渡す構図に寄せた変更です。
この設計は、自律性が増したエージェントを企業環境に持ち込むうえでとても素直です。社内ポータル、認証済みのダッシュボード、契約情報を含む SaaS 画面を デフォルトで遮断 しておき、必要な瞬間だけ手渡しで共有できる。「エージェントは便利だが、何を見られるかが怖い」という現場の懸念に、UX レベルで答える方向の改善です。
境界線その2 – サンドボックスのネットワーク許可と tempフォルダの自動承認
サンドボックスまわりも 2 段階で緩急が付きました。
ひとつ目が エージェントサンドボックスのネットワーク許可モード です。設定キー chat.agent.sandbox.enabled を allowNetwork に切り替えると、ファイルシステムの制限は維持したまま、ネットワークブロッキングだけを緩和できます。API 呼び出しや npm install / pip install のようなパッケージインストールが詰まらなくなる、というのが実用上の効きどころです。
ふたつ目が tempフォルダへの書き込みの自動承認 です。設定キー chat.tools.terminal.blockDetectedFileWrites 配下で「セッション内のすべてのコマンドを許可」を選んだとき、OS の一時フォルダ(/tmp、%TEMP%)への書き込みは確認をスキップできるようになりました。一方で、ワークスペースの外側にある任意のディレクトリへの書き込みは、これまで通り確認を要求します。
ふたつ並べて読むと、設計意図がはっきりします。「壊れても捨てやすい場所」は緩く、「人間の資産が置かれている場所」は厳しく。エージェントを実運用に乗せると、確認ダイアログの粒度が荒すぎて止まる場面と、緩すぎて怖い場面の両方に同時に悩まされます。1.119 はその粒度を、安全側を保ったまま実用側に寄せにきた、という読み方ができます。
観測性 – OpenTelemetry トレーシングがエージェント実行に挿し込まれた
1.119 のもうひとつの主役が OpenTelemetry によるトレーシング です。設定キーは github.copilot.chat.otel.enabled と github.copilot.chat.otel.otlpEndpoint の組で、後者にエンドポイントを指定すると、エージェントのセッションが OTLP 経由で外部の収集基盤に流れていきます。実装は GenAI semantic conventions に準拠していて、ネストされたスパン構造 で各ステップの所要時間とトークン消費を追えます。
エージェントが自律的かつ長時間動くようになるほど、「いまどこで詰まっているか」「なぜトークンを大量に食ったか」が肉眼ではわからなくなります。Chronicle のようなチャット履歴の保存とは別に、エージェント実行の物理的な可視化レイヤ を、エディタが標準で持ったのが大きい変更です。
実務的なインパクトは 2 つあります。ひとつは、社内で複数チームに Copilot を展開したときのコスト把握。OTLP に流せる以上、既存の APM / ログ基盤(Tempo、Honeycomb、Datadog 等)の上で エージェントを「もうひとつのサービス」として観測できる。もうひとつは、SLO 的な扱いです。長時間タスクの平均所要時間や失敗率を、人手で集計せず継続的に追えます。BYOK でモデル選択の主権を持ち(1.117)、トークン経済を整え(1.118)、最後に観測性をはめ込んだ(1.119)という流れで読むと、「エージェントを基盤として運用する」ための骨格が3リリースで揃ったことが見えてきます。 (Visual Studio Code)
エージェントの細部 – モデル詳細表示と「Todo を別エージェントに任せる」設計
エージェントの実行体験まわりにも細かい改善が入っています。
github.copilot.chat.agent.modelDetails.enabled を有効にすると、応答の脇に 使用モデル名とコスト乗数 が表示されます。Auto 選択時には実際にバックエンドで使われたモデル名が出るので、「Auto なんだけど、いまどのモデルで返ってきた?」という問いが UI で完結します。BYOK や使用量ベース課金が現実味を帯びるなかで、透明性をモデル単位で出す 方向の小さな、しかし重要な改善です。
もうひとつ Experimental で入ったのが、github.copilot.chat.agent.backgroundTodoAgent.enabled の バックグラウンド Todo エージェント です。Todo リストの管理を軽量なバックグラウンド・サブエージェントに委譲し、メインのエージェントはタスクの実行に集中できる構成にします。1.118 の Tool search tool / Agentic search/execution tool と同じ系譜で、メインの会話を太らせない ためのアーキテクチャを、Todo 管理という具体的な領域に持ち込んだ変更です。
エディタ機能 – Markdown プレビューがついに「標準装備」になった
ここが今回のリリースで個人的に効いてくる改善です。1.119 では、Markdown のプレビューとエディタを ツールバーのボタンひとつで切り替えられる ようになりました。コマンドパレットからは次の 2 つで明示的に呼び出せます。
- Markdown: Switch to Preview View
- Markdown: Switch to Editor View
これまで「保存と同時にプレビューしたい」「プレビューと編集をワンキーで往復したい」を満たすには、サードパーティの Markdown 拡張に頼るのが定番でした。MDX/Markdown を多用するブログ運用、技術ドキュメント執筆、README の整備 といった日常作業で、別途プラグインを入れて設定して、という手間が地味に続いていたのです。1.119 では、その小さな手数がエディタ標準で吸収されます。書き手としては、新しいマシンに VS Code を入れた直後から、追加拡張なしでプレビューが回せる のが効きます。
加えて Markdown 関連の 設定が再編成 され、Settings > Extensions > Markdown Language Features の下にグループ化されました。プレビューのテーマ、リンクの解決ルール、画像の取り扱いといった項目が、横並びで見渡せる場所に集まっています。Markdown を「コードを書く片手間で扱うフォーマット」から、プロダクト記事や仕様書を書くための一級フォーマット として扱うのなら、地味に効く整理です。
エンジニアリング側の変化 – CSS Anchor Positioning と TypeScript 7
最後に、内側のエンジニアリング改善も触れておきます。
ひとつは Webview の CSS アンカーポジショニング移行が完了 したこと。これまで JavaScript ベースで計算していた要素の位置決めを、ブラウザネイティブの CSS Anchor Positioning に置き換える作業が締まりました。リリースノートでは「22秒 → 4秒」というベンチが示されており、ホバーや補完候補の表示まわりの体感が改善しています。
もうひとつが TypeScript 7 への完全移行。Copilot 拡張を含むビルド済み拡張群とコアコードが 7 系に上がりきり、型チェック時間が大きく短縮されています。エディタ自身の起動とインクリメンタル開発の体感に効きます。
非推奨と移行 – Edit Mode の終わりと使用量ベース課金の足音
非推奨まわりは大きな前進ではないものの、押さえておくと安心です。Edit Mode はすでに 1.110 で公式に非推奨化されており、1.119 では chat.editMode.hidden で一時的に再表示できる状態。ただし 1.125 で削除予定 とアナウンスされているので、依存しているワークフローがあれば早めの移行が無難です。
また、6月1日からの 使用量ベース課金への移行 に向けて、チャットステータスダッシュボードとモデルピッカーの内部 UI が手直しされています。ユーザー向けの最終表示は今後段階的に出てくる見込みです。Auto モデル選択時のモデル詳細表示(前述)と合わせて、コストの可視化に向けた地ならし が確実に進んでいます。
まとめ – 自律エージェントの次のフェーズは「監督できること」
VS Code 1.119 を一言で表すなら、エージェントを長時間動かすための監督装置を揃えたリリース です。
- ブラウザアクセスは明示的承認、サンドボックスは「壊れても捨てやすい場所」だけ緩める
- OpenTelemetry でエージェントを観測対象として外部基盤に流せる
- Auto 選択時のモデル名とコスト乗数まで UI に出す
- Todo 管理は背後のサブエージェントに任せて、メイン会話を汚さない
この4点が同時に入ったことで、「とりあえず動く」段階から「任せて目を離してもよい」段階に近づきました。1.117 の BYOK、1.118 の情報収集ループ、1.119 の信頼境界と観測性、と並べると、企業導入に必要なコンポーネントが揃ってきたのが見えます。
そして地味ながら、Markdown プレビューが標準装備になった嬉しさも、書き手の視点では見逃せません。毎日触るエディタの「ちょっとした手間」がひとつ減ること は、長期的な生産性に確実に効きます。
当社は、生成 AI コンサルティング、生成 AI を活用したシステム開発、自社プロダクト開発を通じて、こうしたエディタ側の進化をプロジェクトの成果につなげる支援を行っています。 (Visual Studio Code)
参照元
- Visual Studio Code 1.119 Release Notes(公式) (Visual Studio Code)