VS Code 1.123 を読む - セッション同期と Chronicle で、AIとの作業履歴が検索できる資産になった

Visual Studio Code 1.123 は、Session sync と Chronicle によって AI との作業履歴を検索・再利用しやすくしたリリース。複数セッションを横並びで見られる Agents window、統合ブラウザ、拡張機能の遅延更新まで、実務で効く点を整理します。

著者
岡崎 太
CTO / AIアーキテクト
公開日
読了時間
11分で読めます
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VS Code 1.123 は、セッションを「残る作業履歴」に変えるリリース

2026年6月3日に公開された Visual Studio Code 1.123 は、エージェントと統合ブラウザを中心にしたアップデートです。公式のハイライトでは、Session sync、Agents window、Research agent、Integrated browser updates が挙げられています。 (Visual Studio Code 1.123)

今回いちばん実務で効きそうなのは、AI との作業セッションが、後から検索できる履歴として扱いやすくなったことです。

セッションが見えるようになったこと自体は、少し前から続いていた流れです。1.120 では Stable 版でも Agents window が Preview として使えるようになり、エージェント用の作業場が独立しました。1.121、1.122 では、リモートエージェントや統合ブラウザまわりが強化され、通常の編集画面とは別に、エージェントを動かす面が育ってきました。

1.123 では、その次の段階に入っています。セッションを単に一覧で見られるだけでなく、GitHub アカウントに同期し、自然言語で検索し、スタンドアップ報告や作業の振り返りに使えるようになりました。「あのとき AI と何を話して、どのファイルを触ったか」を、作業後に取り出せる。これは、AI コーディングを個人の一回限りのチャットから、チームの開発プロセスへ近づける変化です。

Session sync と Chronicle - AIとの会話が検索対象になる

1.123 の中心は Session sync and chronicle です。公式リリースノートでは、チャットセッションが GitHub アカウントへ自動同期され、複数マシンやワークスペースをまたいだ検索可能な作業履歴になると説明されています。同期される情報には、会話、触ったファイル、リポジトリ文脈、ブランチ、タイムスタンプ、関連する PR、Issue、コミットなどが含まれます。 (Visual Studio Code 1.123)

ここで重要なのは、履歴が「ログとして残る」だけではないことです。Chronicle コマンドを使うと、過去のセッションを作業文脈として問い合わせられます。

  • /chronicle:search <query> で、トピック、ファイルパス、PR、Issue などからセッションを検索する
  • /chronicle:standup で、直近の作業をスタンドアップ報告の形にまとめる
  • /chronicle:tips で、自分の Copilot 利用傾向にもとづいた改善ヒントを得る
  • /chronicle:cost-tips で、トークン使用量やコストを抑える観点を探す
  • /chronicle:reindex で、ローカルのセッションインデックスを再構築する

また、コマンドだけでなく、自由文でも質問できます。たとえば「昨日 payments API まわりで何を触ったか」「この PR に関連して過去に調べたことはあるか」といった聞き方です。公式ドキュメントでは、ローカルのセッションストアは SQLite データベースに保存され、会話、触ったファイル、外部参照などがインデックスされると説明されています。 (Query session history with chronicle)

これは、個人の作業速度だけでなく、作業の引き継ぎにも効きます。AI に調査させた内容、途中で捨てた案、レビューで気づいた制約、Issue や PR との紐づきは、これまでチャットの奥に沈みがちでした。Chronicle がうまく機能すると、そうした「作業中に生まれた文脈」を後から取り戻しやすくなります。

同期は便利だが、チームでは境界線を決めたい

Session sync は便利ですが、企業利用では最初に確認しておきたい点があります。

公式ドキュメントでは、同期されたセッションはデフォルトでは本人に紐づくプライベートなデータで、明示的に共有しない限り他者からは見えないと説明されています。また、シークレット、トークン、API キー、資格情報は、データが端末を出る前に取り除かれます。 (Sync Copilot sessions to GitHub)

一方で、組織では GitHub.com 側の enterprise policy と VS Code group policy によって、クラウド同期を有効化・無効化できます。VS Code 側では chat.sessionSync.enabled、除外対象には chat.sessionSync.excludeRepositories が関係します。特定のリポジトリだけクラウド同期から外すこともできます。

実務では、次のように決めておくと安全です。

  • 顧客名、契約情報、認証情報を含むリポジトリでは、同期ポリシーを先に確認する
  • 秘密度の高いリポジトリは chat.sessionSync.excludeRepositories の対象にする
  • セッション共有は「PRレビュー用」「教育用」など用途を決めてから使う
  • 共有されたセッションは閲覧用であり、他者の検索インデックスには入らない前提で扱う
  • 削除が必要な場合は github.copilot.sessionSync.deleteSessions でローカルとクラウドの削除範囲を確認する

AI コーディングの履歴は、ソースコードそのものとは違う種類の情報を含みます。コードには残らない判断、迷い、依頼文、スクリーンショット、失敗した方針が含まれるからです。便利さだけで有効化するのではなく、どの履歴を残し、どの履歴をクラウドに出さないか をチームのルールにしておく必要があります。

Agents window - 複数セッションを横並びでレビューできる

1.123 では、Agents window も改善されています。今回のポイントは 複数のセッションを同時に開けるようになったことです。セッション一覧から Open to the Side を選ぶ、ドラッグ&ドロップする、Alt を押しながら選ぶ、といった操作で、複数のセッションを横並びにできます。 (Visual Studio Code 1.123)

この変化は、エージェントを並列に使う人ほど効きます。

たとえば、同じ Issue に対して 2 つの実装案を走らせたとします。片方は小さく直す案、もう片方は設計から整理する案。これまではセッションを切り替えながら読む必要がありましたが、1.123 では横並びで比較できます。

ただし、複数セッションが見えていても、アクティブなセッションは常に 1 つです。Terminal、Files、Changes の各ビューは、現在アクティブなセッションに追従します。セッションビューを固定したい場合は pin、ひとつに集中したい場合は maximize を使います。

これは小さな UI 改善に見えますが、レビューでは大きいです。エージェント開発では、成果物そのものだけでなく、どの前提で作業したか、どこまで検証したか、何を変更したか を見る必要があります。複数セッションを並べて、差分、会話、作業状態を比較できると、採用する案を判断しやすくなります。

Research agent - 深く調べる仕事を別枠に分ける

もうひとつ気になるのが Research agent です。1.123 時点では Preview で、Copilot CLI の local session かつ Insiders で利用可能とされています。用途は、未知のコードベース、ライブラリ、API、設計案の比較などを深く調べ、引用付きの Markdown レポートを出すことです。 (Visual Studio Code 1.123)

通常のチャットは、すぐに返ってくる相談に向いています。一方で、Research agent は速度より深さを重視し、読み取り専用で調査して報告します。使い方は、Copilot CLI の local session で /research に続けて調査テーマを入力する形です。

これは、すぐにコードを書かせる前の段階で使いやすそうです。

  • 新しいライブラリを採用する前に、既存コードとの相性を調べる
  • 大きなリファクタリング前に、影響範囲を整理する
  • セキュリティやライセンスの観点を先に洗い出す
  • 競合する設計案を比較して、判断材料を Markdown に残す

実務では、調査と実装を同じチャットで混ぜると、会話が長くなり、判断材料も流れがちです。Research agent を使える環境では、調査は調査セッションとして分け、実装セッションへ引き継ぐ流れが作れます。Session sync と Chronicle があると、その調査レポートや関連セッションも後から探しやすくなります。

統合ブラウザ - お気に入りとスクリーンショットで UI 文脈を渡しやすくなった

統合ブラウザも 1.123 で少し使いやすくなっています。今回追加されたのは、Favorite pages とスクリーンショット取得の拡張です。 (Visual Studio Code 1.123)

Favorite pages では、統合ブラウザの URL bar に star icon が入り、よく使うページを登録できます。URL bar を選ぶと、お気に入りと開いているタブを一覧できます。ローカル開発で localhost の複数画面、管理画面、Storybook、Preview URL を行き来する人には地味に効きます。

スクリーンショットまわりでは、前回の Add Screenshot to Chat に加えて、範囲選択スクリーンショットと、実験的な full page screenshot が追加されました。

Add Area Screenshot to Chat は、選択した矩形領域だけをスクリーンショットとして Chat に渡す機能です。Add Full Page Screenshot to Chat は、viewport 外も含めてページ全体を Chat に渡す機能で、workbench.browser.experimentalUserTools.enabled の有効化が必要です。

1.122 では「統合ブラウザで見た画面を Chat に渡せる」ことが大きな変化でした。1.123 では、それがもう少し細かくなっています。画面全体ではなく、崩れているカードだけ、フォームだけ、ヘッダーだけを渡せる。UI 修正では、この粒度が大事です。

サンドボックスのネットワーク再試行と拡張機能の遅延更新も見ておきたい

派手ではありませんが、エージェント運用で見ておきたい改善が 2 つあります。

ひとつ目は、ネットワーク依存コマンドのサンドボックス再試行です。chat.agent.sandbox.retryWithAllowNetworkRequests を有効にすると、ローカルエージェントが実行したターミナルコマンドで、許可ドメイン外へのアクセスが必要になった場合、まずネットワーク制限なしのサンドボックス内で再試行します。それでも失敗した場合に、unsandboxed execution へフォールバックします。git fetch のようなネットワーク依存の操作を通しつつ、ファイルシステム保護を保つための改善です。 (Visual Studio Code 1.123)

ふたつ目は、拡張機能の自動更新に 2 時間の遅延が入ったことです。自動更新が有効な場合でも、新しく公開された拡張機能は公開から 2 時間後に更新されます。問題のあるリリースや、潜在的に侵害されたリリースに対する追加の保護です。ただし、Microsoft、GitHub、OpenAI などの trusted publisher からの拡張には、この遅延は適用されません。必要なら Update ボタンで即時更新できます。 (Visual Studio Code 1.123)

どちらも、生成能力そのものではありません。しかし、AI エージェントを日常開発に入れるなら、こうした「安全に動かすための細部」が効いてきます。

まず試すなら、この順番

1.123 を入れたら、まずは Session sync と Chronicle から確認するのがよさそうです。

  1. VS Code の Status Bar にある Copilot status dashboard で、Session sync の状態を確認する
  2. 必要なら chat.sessionSync.enabled を確認する
  3. 秘密度の高いリポジトリは chat.sessionSync.excludeRepositories の対象にする
  4. いくつかの通常作業を Copilot Chat / agent session で進める
  5. /chronicle:search <query> で、ファイル名、Issue 番号、トピック名から探せるか試す
  6. /chronicle:standup で、直近の作業が報告として使える粒度になるか確認する
  7. Agents window で複数セッションを横並びにして、差分と会話を比較する
  8. 統合ブラウザでは、よく使う localhost や Preview URL を Favorite pages に登録する
  9. UI 修正では Add Area Screenshot to Chat を使って、対象範囲だけを渡す

特にチーム導入では、Chronicle を「便利な検索」だけで終わらせないほうがよいです。Issue 対応、PR レビュー、朝会、週次の振り返りなど、どこで履歴を使うと価値が出るかを決めると、単なる個人機能からチームの作業記録に近づきます。

まとめ

Visual Studio Code 1.123 は、AI との作業セッションを検索・比較・再利用しやすくしたリリースです。

  • Session sync で、チャットセッションを GitHub アカウントに同期できる
  • Chronicle で、過去セッションを自然言語、ファイル、PR、Issue などから検索できる
  • /chronicle:standup/chronicle:tips により、作業報告や利用改善にも使える
  • Agents window で複数セッションを横並びにし、実装案や調査結果を比較しやすくなった
  • Research agent は、深い調査を実装セッションから分離する方向性を示している
  • 統合ブラウザは、お気に入りと範囲スクリーンショットで UI 文脈を渡しやすくなった
  • 拡張機能の 2 時間遅延更新は、エージェント時代の開発環境を守る小さな安全策として見ておきたい

セッションが見えるようになったこと自体は、すでに始まっていた変化です。1.123 の面白さは、その見えるセッションが、検索できる履歴、比較できる作業単位、再利用できる文脈へ進んだところにあります。

AI コーディングでは、1 回の回答品質だけでなく、過去の調査、判断、失敗、差分をどう残すかが重要になります。1.123 は、VS Code がその履歴をエディタの外側ではなく、開発体験の中に置こうとしているリリースです。

当社は、生成 AI コンサルティング、生成 AI を活用したシステム開発、自社プロダクト開発を通じて、こうしたエディタ側の進化をチームの開発プロセスに落とし込む支援を行っています。

参照元