筆者の利用環境では Claude Fable 5 をサブスク枠で使えるのが 2026年7月7日まで、ということで、短い期間ですがかなり集中的に使っています。
その中で面白かったのが、「ナレッジを蒸留する」という使い方でした。
弊社では 2025年4月の創業以来、会議は必ず Notion に議事録を残す運用にしてきました。日々の会議、顧客とのやり取り、プロダクトの検討、システム開発の判断、AI仕様駆動開発の試行錯誤。気づけば、Notion の中にはかなりの知見が溜まっていました。
ただ、溜まっていることと、使えることは別です。
Notion にページがある。検索すれば見つかる。過去の議事録も残っている。けれど、AIエージェントが作業中に必要な形で呼び出せるかというと、まだ距離がありました。
そこで Fable 5 に、Notion に溜まった知見を抽出できないか聞いてみました。
返ってきた言葉が「蒸留します」でした。
「蒸留」という言葉がしっくり来た
最初は、少し大げさな表現にも聞こえました。
しかし、実際にやってみると「要約」よりも「蒸留」の方が近いと感じました。
要約は、長い文章を短くする作業です。
蒸留は、長い経験の中から再利用できる成分を取り出す作業です。
会議の議事録には、雑談、背景、未確定の話、途中で消えた案、誰かの一言、決定事項、保留事項が混ざっています。ブログ記事には、その時点での問題意識や外部情報への反応があります。書籍には、体系化された考え方や、繰り返し使ってきた説明の型があります。
それらをそのまま AI に渡しても、情報量は多いものの、作業手順としては使いにくい。
蒸留では、そこから次のようなものを取り出します。
- 何度も出てくる判断基準
- 失敗しやすい進め方
- 成功したときの手順
- 人間が確認すべき境界
- AIに任せてよい作業と、任せてはいけない作業
- 社内で自然に使っている言葉や定義
- Issue、PR、レビュー、公開判断に落とせる型
これは単なるナレッジ整理ではありません。
仕事の中で再利用できる「スキル」に変える作業です。
議事録、ブログ、書籍を同じ目で見る
今回、最初に見たのは Notion の議事録でした。
創業からの会議を Notion に残してきたので、そこには会社の意思決定の履歴があります。なぜその機能を作ったのか。なぜその案件を優先したのか。どこで迷ったのか。どの論点が何度も繰り返されたのか。
議事録は、リアルタイムの思考の残像です。
次に、過去のブログ記事も蒸留してみました。
ブログ記事には、その時々のAI開発やシステム開発への見方が出ています。記事として公開するために整えられているので、議事録よりも外向きで、説明の型が見えやすい。繰り返し出てくるテーマも分かります。
さらに、これまで出してきた14冊の書籍も対象にしました。
それらは、システム開発やAI仕様駆動開発について書いたものです。ブログよりも長く、議事録よりも体系化されています。つまり、会社の実務知と思想をつなぐ材料になりました。
この3つを並べると、面白い構造が見えてきます。
| 情報源 | 含まれている知見 | 蒸留後に使いやすい形 |
|---|---|---|
| Notion議事録 | 実際の判断、迷い、未決事項、合意形成 | 判断基準、進行手順、確認観点 |
| ブログ記事 | 外部情報への解釈、実務視点、説明の型 | 公開文脈、論点整理、読者向けの語り方 |
| 書籍 | 体系化された方法論、長期的な思想 | 原則、フレームワーク、教育用の型 |
それぞれ単体でも価値があります。
しかし、AIで蒸留すると、これらが別々の資料ではなく、一つの「会社の考え方」として扱えるようになります。
ナレッジをSkillsに変える
蒸留した結果、見えてきたのは「これは Skills にできる」ということでした。
ここでいう Skills は、単なるプロンプト集ではありません。
AIエージェントが作業するときに、必要なタイミングで読み込み、手順として使える知識の単位です。
たとえば、ブログを書く Skill なら、単に「ブログを書いてください」と指示するだけでは不十分です。
そこには、次のような知識が必要です。
- どのディレクトリに記事を置くか
- frontmatter には何が必要か
- 著者名の扱いはどうするか
- draft と公開日の境界はどう管理するか
- どの検証コマンドを走らせるか
- どこまでできたら「完了」と呼ぶか
- 公開記事として避けるべき言い回しは何か
これらは、毎回チャットで説明すると長くなります。
しかし Skill にしておけば、AI は必要なときにその手順を読み、同じルールで動けます。
つまり、ナレッジは「保管されている情報」から「作業を進める力」に変わります。
Pluginにすると、AIが会社の文脈を持ち運べる
さらに面白かったのは、Skills を Plugin として Claude や Codex に取り込める形まで持っていけたことです。
これは感覚として大きな変化でした。
これまでのAI活用では、毎回こちらが文脈を説明していました。
「弊社ではこういう運用です」 「このリポジトリではこうしてください」 「この作業は、まずIssueを確認してから進めてください」 「ブログ記事はこの文体で、検証はここまで必要です」
もちろん、AGENTS.md や CLAUDE.md のような常時コンテキストもあります。それでも、仕事の種類ごとに必要な知識は違います。
Plugin にしておくと、AI は作業に応じて必要な Skills を呼び出せます。
これは、会社の知識をAIに「教える」というより、会社の仕事の仕方をAIが「持ち運べる」ようにする感覚に近いです。
Notion に溜まった議事録。
過去に書いたブログ。
書籍として整理した思想。
日々の開発で積み上がったルール。
それらが、AIエージェントの作業中に参照される。
この状態になると、AIの回答は単なる一般論ではなく、自社の仕事の流れに寄ってきます。
「自分たちの知識をAIで呼び出せる」時代
今回一番大きかった実感は、ここです。
自分たちの知識を、AIで呼び出せるようになった。
しかも、単に検索するのではありません。
会議の内容を探すだけなら、Notion検索でもできます。ブログ記事を読むだけなら、サイトを見ればよい。書籍を読むだけなら、PDFや原稿を開けばよい。
でも、Skills / Plugin 化すると少し違います。
AIが作業しているその場で、必要な知識を呼び出し、手順として適用できます。
たとえば、記事を書くときは記事作成の Skill を使う。Issueを切るときはIssue/PR運用の Skill を使う。校正するときは日本語、事実、論理、用語の観点を分けて見る。リリースするときはdevelopとmainの境界を間違えない。
これは、単なるナレッジベースではありません。
会社の実務知を、AIエージェントの実行環境に接続することです。
ただし、全部を入れればよいわけではない
もちろん、Notion の全ページをそのままAIに読ませればよい、という話ではありません。
蒸留が必要なのは、ここでも同じです。
議事録には、未確定の話や古い判断もあります。創業初期の仮説が、今では違う結論になっていることもあります。顧客情報や個人情報も含まれます。AIに渡すべきではない情報もあります。
だから、Skill にする前に人間が見るべきです。
- 今も有効な知識か
- どの作業で使う知識か
- 断定してよい内容か
- 古い判断が混ざっていないか
- 顧客情報や機密情報が含まれていないか
- 実行手順として安全か
- 検証方法が明示されているか
AIに蒸留させることはできます。
ただし、最後に「これは会社の手順として残してよい」と判断するのは人間です。
ここを省くと、古い判断や曖昧な思いつきまで、AIが会社のルールとして扱ってしまう危険があります。
ナレッジマネジメントは、読むためから使うためへ
Notion に議事録を残すことは、これまでも大事でした。
しかし、AIエージェントが仕事に入ってくると、ナレッジマネジメントの意味が変わります。
人間が後で読むために残す。
それだけではなく、AIが作業時に使えるように残す。
そのためには、ただ情報を溜めるだけでは足りません。AIが扱いやすい単位に分け、手順、判断基準、検証条件、禁止事項として整理しておく必要があります。
今回の「蒸留」は、その入口でした。
Notion の議事録を読む。
ブログ記事を読む。
書籍を読む。
そこから、繰り返し使える知識を取り出す。
それを Skills にする。
さらに Plugin として Claude や Codex から使えるようにする。
ここまで行くと、ナレッジはアーカイブではなく、仕事の部品になります。
まとめ
Fable 5 を使い倒そうと思って始めたことが、思った以上に大きな発見につながりました。
創業以来 Notion に残してきた議事録には、会社の判断の履歴がありました。過去のブログには、外部情報をどう実務に引き寄せて見てきたかが残っていました。14冊の書籍には、システム開発やAI仕様駆動開発についての考え方が体系化されていました。
それらをFable 5で蒸留すると、単なる要約ではなく、Skills として再利用できる知識が見えてきました。
さらに Plugin として Claude や Codex に取り込める形にすると、AIが自社の知識を作業中に呼び出せるようになります。
これはかなりすごいことだと思います。
AIに質問する時代から、AIが自社の知識を使って一緒に作業する時代へ。
その入口に立った感覚があります。
Notion に眠っている議事録、過去に書いた記事、社内に蓄積された手順。これらは、もう単なる記録ではありません。
蒸留すれば、AIと一緒に使えるスキルになります。

