意思決定AIの性能・価格比較:Microsoft-Decision-1、OpenAI Decisions API、Jev、Clef

Microsoft-Decision-1の登場で、判断だけを返すAIの選択肢が増えました。OpenAI Decisions API、TypeSafe Jev、Cloudflare Clefを、公式料金・公開ベンチマーク・入力形式で比較。100万件の費用試算と、自社の業務で選ぶための評価方法も整理します。

著者
岡崎 太
CTO / AIアーキテクト
公開日
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16分で読めます
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2026年10月9日、Microsoftは意思決定に特化した「Microsoft-Decision-1」を発表しました。TypeSafe AIのJev、OpenAIのDecisions APIに続き、文章の生成よりも分類・選択・採点を短時間で返すAIが揃ってきました。

主要な選択肢は、この3つだけではありません。CloudflareもClefシリーズを提供し、同じ10月9日にClef-flashの値下げと、音声・動画も扱うClef-omniを発表しています。Perplexityなどからも自社運用向けのモデルが出ています。

本記事では、まず使い始めやすいホスト型APIの4社6モデルを比較し、その後で自社運用の候補を整理します。確認日は2026年10月10日です。料金は公式の公表値、性能は評価主体を明記した公開結果を使います。当社によるAPI実測ではありません。

最初に要点を示します。

  • 公表入力単価では、今回の6モデル中でClef-flashが最安。Microsoft-Decision-1とJevは同額です。
  • 性能の総合順位は、今回確認できた一次情報だけでは4社共通に付けられません。タスクによって優劣も変わります。
  • 画像・音声・動画を扱うか、既存のクラウド環境、誤判定を人に戻す仕組みまで含めると、選ぶモデルは変わります。

「意思決定AI」は何を返すのか

ここで扱うのは、経営判断を丸ごと任せるAIではありません。候補や基準を人が定め、その範囲で判断するモデルです。

たとえば、問い合わせを「請求・技術・配送・その他」に振り分ける。回答が社内資料に沿っているかを確率で返す。障害の深刻度を、定義した段階に沿って採点する。こうした小さな判断を、アプリケーションの分岐に直接つなぎます。

文章を読む → 小さく判断する → コードで動かす問い合わせ + 判断基準「二重に請求されました」部署の候補・緊急性の定義意思決定モデル担当部署・確率・スコア定義した候補から返すアプリケーション確信が低い → 人が確認条件を満たす → 自動分岐候補の型が正しくても、選んだ内容が正しいとは限らない
図1:業務の流れの中に置く、小さな判断部品です。モデルの出力を受けて何を実行するかは、アプリケーション側で定めます。

OpenAIはpredicate / choice / score、JevはNoul / Choice / Scoreという質問型を持ちます。真偽の確率、固定候補からの選択、順序のある段階での採点という対応です。Microsoftはyes/no・複数選択肢・ratingを、Clefも型を指定した質問を扱います。OpenAI公式ガイド、Jevの質問型、Microsoft公式発表、Clefの仕様で確認できます。

自由な説明文や任意のJSONオブジェクトが必要なら、生成AIのStructured Outputsなども比較対象になります。固定の判断を繰り返す部分に、この専用APIを入れるのが基本です。

4社6モデルの位置づけ

OpenAIの正式名称はDecisions APIで、今回の対応モデルはgpt-6-lunaです。APIの名称とモデル名を分けて比較します。

提供元・モデル/API 主な入力 提供・統合の入口
Microsoft-Decision-1 テキストのみ Microsoft Foundry、OpenRouter
OpenAI Decisions API / GPT-6 Luna テキスト・画像 POST /v1/decisions、Playground。パブリックベータ
TypeSafe Jev 1.13 テキスト。JSONの状態も渡せる TypeSafe API、SDK
Cloudflare Clef-flash テキスト・画像など Workers AI、公開重み
Cloudflare Clef テキスト・画像など Workers AI、公開重み
Cloudflare Clef-omni テキスト・画像・音声・動画 Workers AI、公開重み

出典:Microsoftの提供案内・Foundryの仕様、OpenAI公式ガイド、TypeSafe Models、Cloudflareのflash・Clef・omni仕様。提供条件は各経路で異なります。

Microsoft-Decision-1とJevは確認時点でテキスト専用です。Microsoftの仕様は画像・音声・動画への非対応を明記しています。Foundryの仕様

画像や音声を前処理するなら、その費用と遅延も加わります。日本語についても、TypeSafeは英語で最も精度が高く、他言語は同等ではないと説明しています。英語中心の評価から日本語での優劣を推定することはできません。TypeSafe Models

入力長にも注意が必要です。Microsoft-Decision-1のコンテキスト長は32,768トークンです。Foundryの仕様

Workers AIのClef-flashは24,576トークン、ClefとClef-omniは64,000トークンです。Jevはリクエスト全体64kに加え、stateと最長の質問の合計32kという制限があります。Clefでは長いテキストのstateを切り詰める仕様があるため、「リクエストが成功した」だけで全文を評価したと判断せず、事前に入力長を管理します。flash仕様、Clef仕様、omni仕様、Jev仕様

価格比較:入力単価ではClef-flash、MicrosoftとJevは同額

次の表は、通常の入力100万トークン当たりの米ドル建て公表単価です。出力は6モデルとも無料と案内されています。

モデル/API 入力100万トークン 出力トークン 価格の確認先
Clef-flash $0.038 無料 Workers AI仕様
Microsoft-Decision-1 $0.042 無料 Microsoft公式発表
Jev 1.13 $0.042 無料 TypeSafe Models
OpenAI Decisions API / GPT-6 Luna $0.10 無料 Decisions公式ガイド
Clef-omni $0.15 無料 Workers AI仕様
Clef $0.24 無料 Workers AI仕様

これはモデルの推論単価です。税・為替・ゲートウェイ手数料・クラウド基盤費・個別契約・無料枠は含めていません。OpenAIは地域処理の追加料金と長文入力の倍率が適用されると注記しており、キャッシュの読み書きと出力には課金しないと説明しています。「キャッシュが無料」を「全入力が無料」とは読み替えません。Decisionsの料金条件

Cloudflareは10月9日にClef-flashを値下げしました。発表直後の古い料金で比較すると順位が変わるため、ここでは確認日の仕様ページを採用しています。Cloudflareの更新発表

100万件処理すると、いくらか

判断対象だけでなく、指示・候補・採点基準なども含めて、各APIの課金上の入力が1リクエスト1,000トークン、1件につき1リクエスト、再試行なしと仮定します。100万件なら合計10億トークンです。

モデル/API 1万件の試算 100万件の試算
Clef-flash $0.38 $38
Microsoft-Decision-1 $0.42 $42
Jev $0.42 $42
OpenAI Decisions API $1.00 $100
Clef-omni $1.50 $150
Clef $2.40 $240

計算式は「件数 × 1件の課金入力トークン数 ÷ 100万 × 入力単価」です。独自の測定結果ではなく、上の料金表からの算術です。

100万件のモデル推論費用(試算・米ドル)各APIで1件1,000課金入力トークン・再試行なしClef-flash$38Microsoft-Decision-1$42Jev$42OpenAI Decisions$100Clef-omni$150Clef$240手数料・前処理・基盤費・人による確認費は含めない
図2:同じ課金トークン数なら、単価差がそのまま推論費用の差になります。同じ日本語文章が各モデルで同じトークン数になる保証はありません。

この条件なら、Clef-flashとJevの差は100万件でも4ドルです。OpenAIとJevの差は58ドル。入力が10倍なら差額も10倍になりますが、短い入力では数ドルの単価差より、誤判定の修正や運用の手間が大きくなり得ることが分かります。

複数の独立した質問を1回にまとめられる場合もあります。1リクエストと1つの判断は同じ単位ではありません。実運用では質問数も含めて課金入力を記録し、「正しく完了した1件当たり」の費用で比べます。音声・動画は文字数で見積もれず、媒体ごとの入力トークン換算も必要です。

性能比較:「最速」「最高精度」は条件とセットで読む

Microsoftの評価は広い。ただしMicrosoftによる評価

Microsoftは36ベンチマーク、約15万問で比較し、Microsoft-Decision-1が比較対象中で最高の正答率だったと報告しています。GPT-6 LunaのDecisions APIも比較対象です(同社の評価表では「GPT-6 Luna Decisions」と表記)。P50レイテンシはGPT-6 Sol比で約35倍高速、確認時点の更新済み本文では次点のH2O-Lightning-4B v1.1比で2.5倍としています。Microsoft公式評価

これはMicrosoftの評価環境での結果です。Clef系列まで含む4社共通の独立評価とは扱えません。公開ページにはJevの正答率・較正の評価を追加したという更新注記もあるため、更新前の比較表と混ぜないことが大切です。

OpenAIの「約10倍」はResponses APIとの比較

OpenAIはDecisions APIを、Responses APIより約10倍高速と説明しています。これはDecisionsと通常の応答生成の比較であり、MicrosoftやJevに対する倍率ではありません。OpenAI公式ガイド

「Microsoftが35倍、OpenAIが10倍だから、MicrosoftはOpenAIの3.5倍速い」という計算は成立しません。 比較相手も測定方法も異なるためです。

ClefとJevは、同じ表でも得意分野が分かれる

Cloudflareの10月9日の公開表から、用途が違う4つの評価を抜き出します。Cloudflareによる評価で、同じ評価列の中でモデル間を比較します。MicrosoftとOpenAIはこの表に含まれていません。

API呼び出し関連の2評価です。いずれもaccuracy(正答率)で、高いほどよい値です。

モデル API-Bank When2Call
Clef-omni 92.7 63.3
Clef 91.93 72.37
Clef-flash 93.11 65.58
Jev 88.19 80.97

分類と検索順位の2評価です。こちらも高いほどよい値です。

モデル BANKING77:macro-F1 BRIGHT:nDCG@10
Clef-omni 94.8 42.0
Clef 94.20 45.91
Clef-flash 90.93 39.26
Jev 79.74 47.52

出典:Cloudflareの10月9日発表・評価表。数値は同社の表記を維持しています。評価時のJevのバージョンはこの公開表に明記されておらず、料金表のJev 1.13と同一版とは確認できません。accuracyは正答率、macro-F1は各クラスを均等に扱う分類指標、nDCG@10は上位10件の順位品質の指標です。異なる指標を合計して総合点にはしません。

ここから読めるのは、flashがAPI-Bankで上回っても、When2CallやBRIGHTではJevが上回ることです。またBANKING77ではomniが高い結果です。最安モデルが常に低精度でも、高価なモデルが全タスクで高精度でもありません。

速度も、リリース時点と入力をそろえる

Cloudflareの10月1日の評価では、43の評価におけるレイテンシ中央値はClef-flashが38.8ms、Clefが209.3ms、Jevが524.1msでした。ただし、その後Clefの高速化が発表されています。これは10月1日の記録であり、10月10日時点の現行APIを当社が測った値ではありません。10月1日の評価

10月9日の発表ではClef-omniのテキスト入力の中央値が約130msとされています。画像・音声・動画では処理時間が変わります。入力が違う数字を並べて全モデルの速度順位にはしません。10月9日の更新

今回の一次情報調査では、4社6モデルを同じ入力・同じ時点・同じ地域・同じ負荷で測った性能表は確認できませんでした。現時点では、各社の評価から候補を絞り、自社の入力で最終比較するのが妥当です。

確率が返れば、安心して自動化できるのか

確率は、人に戻す仕組みを作るうえで有用です。ただし、候補の確率分布が鋭いことと、実際に正しいことは別です。Jevのconfidenceも分布の形を要約した値で、そのまま個々の判定の正答確率とは読めません。TypeSafe Confidence

関連する公開研究として、プレプリント「More Choices, Fewer Decisions: Ordinal-Scale Bias in JEV-like Direct-Decision Models」があります。JevとKevを調べ、順序のあるラベルを細分化すると、実際の判断分布が一部の段階へ偏る問題を報告しています。

ここでいう偏りは、単に「選択肢を一度も使わない」という数え方ではなく、分布のエントロピーから測る有効な広がりの縮小です。研究対象は限定され、Microsoft・OpenAI・Clefを評価した論文ではありません。4社すべてに同じ欠点があるとは結論できませんが、スコアの段階を増やせば、そのまま細かく評価できるとは限らないという検証観点になります。

実務では、正答率に加えて「高い確率で答えたケースは本当に当たりやすいか」「重大な誤りを何件見逃したか」「候補順を変えると判定が変わらないか」を調べます。返金などの不可逆な操作は、判定結果だけで実行せず、権限・業務ルール・人の確認条件をコード側で持ちます。

他にもある:Perplexity、H2O、Strandsの自社運用モデル

主要APIの比較と分けて、モデルを自分で動かす選択肢も確認しておきます。

公開モデル 一次情報 検討する価値
Perplexity pplx-decider-v1.1-27b 公式モデルカード テキスト・画像を扱う意思決定モデル。Apache 2.0
H2O-Lightning-4B H2O公式モデルカード 4B規模の公開モデル。Apache 2.0
Strands-Decider 公式リポジトリ エージェント向けの選択・採点モデル。実装と評価を追える

上のH2Oはモデル系列名です。速度比較の段落で引用したMicrosoftの評価対象はv1.1であり、運用時は利用するバージョンを固定して確認します。

これらの公開重みを使う場合、推論料金を「無料」とは置けません。GPU、稼働率、監視、更新、障害対応の費用が必要です。Cloudflareの公開重みも、自社運用時の費用は上のWorkers AI単価とは別になります。

データを外部に送りにくい、大量処理で稼働率を確保できる、モデルや推論実装を調整したい。こうした要件があるなら候補になります。今回の料金表へ、運用条件不明の自社ホスティング費を無理に並べることはしません。

どう選ぶか:同じ業務データで「正しく完了した1件」を比べる

以下は公式順位ではなく、ここまでの仕様からの当社の選定案です。

最初に確認したい要件 比較を始める候補 判断を決める追加確認
Azure上で分類・検証を組み込みたい Microsoft-Decision-1 利用リージョン、契約、実データでの誤判定
OpenAIをすでに使い、画像も判断したい Decisions API ベータ条件、画像入力、通常APIとの分担
テキストを複数の小さな質問で判定したい JevとClef-flash 日本語、質問のまとめ方、確率の較正
入力単価を下げ、Workersと統合したい Clef-flash 入力上限、誤判定率、Clefとの精度差
音声・動画を前処理ごと簡素化したい Clef-omni メディアの課金トークン数、待ち時間、取りこぼし
重みを自社環境で管理したい Clef系列、Perplexity、H2O、Strands ライセンス、GPU費、更新と運用体制

評価用には、実際の日本語入力から正解付きの例を用意します。よくある例だけでなく、曖昧な例、情報が足りない例、分類外の例、否定表現、長い入力も含めます。チューニング用と最終評価用を分け、モデルごとに都合のよい正解や候補へ変えないことが大切です。

測る項目は次の5つです。

  1. 分類の品質:正答率、macro-F1、業務上重大な見逃し。
  2. 確率の較正:確率帯ごとの実正答率と、人へ戻す割合。
  3. 待ち時間:同じ入力長・地域・同時実行数でのP50とP95。
  4. 安定性:候補の順序、言い換え、入力長による変化。
  5. 完了費用:推論、再試行、前処理、人の修正を含む1件当たり費用。

たとえば1件1,000課金入力トークン・月100万件の条件でAPI費用が月58ドル下がっても、人の確認が月に何時間も増えれば、業務全体では安くなりません。逆に、自動化できる件数を増やしながら重大な誤りを抑えられるなら、入力単価の高いモデルにも価値があります。

Microsoftの参入で、意思決定AIは製品を選べる段階に進みました。公表単価だけならClef-flash、Microsoft、Jevが近い価格帯に並びます。しかし選ぶ基準は、自社の仕事をどれだけ速く、正しく、少ない手直しで終えられるかです。判断部品を小さく切り出し、複数のモデルを入れ替えて測れる設計にしておくことが、今の段階では実用的だと考えています。

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